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October 31101996

 竜胆は若き日のわが挫折の色

                           田川飛旅子

胆(りんどう)は、さながら「秋の精」のように美しい。吸い込まれるような花の色だ。しかし、その色を「挫折の色」とする人もいる。花の色が美しいだけに、傷の深かったことが想像されて、いたましい。挫折の中身はもちろん不明だが、失恋などではなくて、むしろ青春期の思想的ないしは政治的な挫折だと私は読んでおく。「挫折」という言葉を俳句で使った人を、他に知らない。ところで、あなたにかつて挫折の時があったとすれば、その「挫折の色」はどんな色でしょうか。(清水哲男)


November 06111999

 竜胆の花暗きまで濃かりけり

                           殿村菟絲子

胆(りんどう)は、根を噛むと非常に苦いので、竜の肝のようだということから命名されたようだ。日のあたるときにだけ開き、雨天のときや夜間は閉じてしまう。句は、閉じてもなお自分の色を失わぬ竜胆の花に、気丈な性質を見てとっているのだろう。もちろん、同時に花色の鮮やかさを賞賛している。この花はちょっと見には可憐だが、なかなかどうして、茎といい葉といい花といい、芯の強い印象は相当なものである。私はいつも、気の強い女性を連想させられてしまう。『枕草子』にも、こうある。「龍膽は、枝ざしなどもむつかしけれど、こと花どものみな霜枯れたるに、いとはなやかなる色あひにてさし出でたる、いとをかし」。繁殖させようとすると意のままにならないが、自然体だと寒くなっても凛として美々しく咲いていると言うのである。清少納言と私の感受性はよく食い違うけれど、こと竜胆に関しては一致した。いまどきの花屋の店先には、初秋を待たずに切花として登場してくるが、あの色はいけない。野生の花にくらべると、深みがない。竜胆もまた、やはり野においておくべき草花である。(清水哲男)


October 21102014

 月の夜のワインボトルの底に山

                           樅山木綿太

がワインを手にしたのは古代メソポタミア文明までさかのぼる。醸造は陶器や革袋の時代を経て、木製の樽が登場し、コルク栓の誕生とともにワインボトルが普及した。瓶底のデザインは、長い歴史のなかで熟成中に溶けきらなくなったタンニンや色素の成分などの澱(おり)を沈殿させ、グラスに注ぐ際に舞い上がりにくくするために考案されたものだ。便宜上のかたちとは分かっても、ワインの底にひとつの山を発見したことによって、それはまるで美酒の神が宿る祠のようにも見えてくる。ワインの海のなかにそびえる山は、月に照らされ、しずかに時を待っている。〈竜胆に成層圏の色やどる〉〈父と子の落葉けちらす遊びかな〉『宙空』(2014)所収。(土肥あき子)




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