December 041996
偽りの世に気をとり直し日記買ふ
今泉貞鳳
表現としては、なんのてらいもないそのまんま俳句。だが、偽りの世に気をとり直して日記を買うという意志には、強い反骨精神がこめられている。昭和30年代人気を博したNHKテレビ「お笑い三人組」に出演していた一龍斉貞鳳氏にとって、偽りの世とはどんなものであったのか、と思うと更なる味わいがある。(國井克彦)
December 031996
冬晴れのとある駅より印度人
飯田龍太
評者はこの句を筑紫磐井著『飯田龍太の彼方へ』で発見(!)した。筑紫氏によれば「変な俳句」となるが、評者はこれを新種の傑作と見る。この意外性、この変なおかしみ、冬でなくてもよくて、しかし冬晴れじゃないと(なにしろ印度人だから夏じゃつまらない)おもしろくないというとり合わせの妙。龍太句のマジメな句を突き抜けている。昭和52年作。『涼夜』所収。(井川博年)
December 021996
手から手へあやとりの川しぐれつつ
澁谷 道
あやとり遊びの「川」は、基本形である。いくつかのバリエーションがあって、どんな形からも簡単に「川」に戻すことができる。で、困ったときには「川」に戻して相手の出方を待つ。そうすると、相手もまた違う「川」をつくって「どうぞ」という。将棋の千日手みたいになってしまうことが、よく起きる。そのようなやりとりに、作者は時雨を感じたというのである。女の子の他愛無い遊びに過ぎないけれど、そこに俳人は女性に特有の運命を洞察しているとも読める。『素馨』所収。ちなみに「素馨(そけい)」は、ジャスミンの一種。(清水哲男)
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