T@u句

December 14121996

 寒夜や棚にこたゆる臼の音

                           探 志

夜(かんや)は「さむきよ」と読ませたいところ。柴田宵曲著『古句を観る』(岩波文庫)で見つけた。芭蕉と同時代の「有名でない俳人のできるだけ有名でない句ばかり集めた」という珍本である。この句については、次のように書いてある。「隣が搗屋(つきや)でその臼の響がこたえるのだとすれば、小言幸兵衛そっくりだが、そう限定する必要はない。臼はどこの臼で、何を搗くのでも構わぬ。ただずしりずしりという響が棚にこたえて、棚の上に置いてあるものがその振動を感ずる。もしこれが『壁をへだつる臼の音』とでもあったら、臼の所在は明になるけれども、句そのものの働きは単純になって来る。臼の音を臼の音で終らしめず、棚にこたえる点に着眼したのがこの句の特色である」……と。もうひとつ、私などには元禄期庶民の住宅環境がわかって、そちらの証言としても興味深いものがある。とはいえ、いまどきの西洋長屋の室内で餅を搗いたとしたら、もっとひどいことになるでしょうけれど。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます