1996N1219句(前日までの二句を含む)

December 19121996

 隅田川見て刻待てり年わすれ

                           水原秋桜子

年会がはじまる時刻までには、まだ間がある。ひさしぶりに会場近くの隅田川を眺めながら、時間をつぶしている図。ゆったりとした川の流れが今年一年の時の流れへの思いと重なって、歳末の情感がしみじみと胸にわいてくる……。今宵は、静かな席での良い酒になりそうだ。秋桜子の代表句といってよいだろう。(清水哲男)


December 18121996

 烏めが何ニ寄りあふとしの暮

                           經善寺呂芳

から烏は嫌われもの。早朝から大声で鳴きたてるし、悪さはするし、色も不吉だ。この忙しい年の暮れに、毎日毎日何のために寄り合って、うるさくわめいているのか……。と、作者は烏に八つ当たりをしている。呂芳は北信濃の長沼村經善寺の住職で、彼の父も子も一茶に師事したという熱烈な一茶党。天保元年没。『七番日記』にも「寝馴れし寺」として寺の名前が出てくる。明治の初年には廃寺となり、一家は橘姓を名乗って長野市に移住したが、その後は杳として消息が途絶えてしまったという。『一茶十哲句集』所収。(清水哲男)


December 17121996

 羽子板市月日渦巻きはじめたり

                           百合山羽公

子板市は、浅草観音の十七日・十八日と、旧薬研堀不動(両国)の二十七日・二十八日が有名。華やかな市ではあるが、作者のいうように、背中を追い立てられる雰囲気でもある。そこが、またいい。男の子のくせに、押絵の羽子板に憧れていた。世の中には豪華なものがあることを、具体的に知ったはじめての物かもしれない。でも一方で、あんなに重い羽子板でどうやって羽根をつくのだろうと不思議に思っていたのだから、まだちっぽけな子供でしかなかったということ。結局、一度も買ったことはない。(清水哲男)




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