January 011997
利根川に引火するごと初茜
黒沢 清
初茜は、初日の昇る直前の赤くなった東の空の色のこと。その茜色が、利根川の流れに引火しそうに鮮やかだというのである。元日の句にはおさまりかえった人事的なものが多いなかで、この句は荒々しい自然の息吹きを見事にとらえていて、出色である。多摩川でもなければ隅田川でもない。利根川の、いわば「生理」を描いているのだ。今年の元朝の利根川も、こんな様子だったのだろうか。(清水哲男)
January 012005
初茜鶏鳴松をのぼりけり
櫛原希伊子
明けまして、おめでとうございます。この清冽な抒情句をもって、2005年のスタートとします。季語は「初茜(はつあかね)」で新年。初日の出る直前の東の空はほのぼのと明るくなり、やがて静かに茜色がさしてくる。身も心も洗われるように清々しくも、しかし束の間のひとときだ。とりわけて、電灯の無かった時代の人々には、待ちかねた新年の光に心の震える思いがあっただろう。その昔から現代にいたるまで、いまの都会では無理だとしても、この時間になるといちばんに雄鶏が「咽喉(のんど)の笛を吹き鳴らし」(島崎藤村「朝」)てきた。その雄叫びにも似た「鶏鳴(けいめい)」は、句の作者も自注で記しているように、赤のイメージだ。その赤き声が、茜空をバックに黒々と大地に根を生やした「松」の大木にのぼってゆく……。まさに、自然が巧まずして描き上げた一幅の画のようではないか。いや、句の作者その人が巧まずして描いたからこそ、そのように受け取れるのだ。このような句に出会うとき、俳句という文芸を知っていて良かったと、しみじみと思う。この毅然とした鶏鳴が、なにとぞ本年の世界中の人々の幸せにつながりますように。祈りながら、今年も当サイトを増殖させてゆく所存です。よろしく、おつきあいくださいますように。『櫛原希伊子集』(2000・俳人協会刊)所収。(清水哲男)
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