1997N116句(前日までの二句を含む)

January 1611997

 仁王立ちの雀と見つめ合うしばし

                           田中久美子

合いがしらの猫とは、たまにこういう状態になってしまうことがある。雀とでも、見合ってしまうことがあるのだろうか。この句を読むと、ありそうな気がしてくる。しかも、その雀が仁王立ちというのだ。猫とちがって雀の脚は二本だから、なるほど、仁王立ちになれるのである。その姿がなんとなくおかしく、なんとなく可愛らしい。田中久美子は詩人だが、俳句をつくらせても巧いものである。詩誌「Pfui!」2号(1997・京都)所載。(清水哲男)


January 1511997

 徴兵も成人の日もないまんま

                           小沢信男

イツから帰国中の娘が、今年は配偶者の弟が徴兵にかかるのだと言う。一年の兵役義務だ。ドイツにかぎらず、世界の多くの国の若い男たちは、その青春の日々の一定期間を軍隊で過ごさねばならない。敗戦前の日本でもそうだった。句の前書に「昭和二年生まれ」とある。作者は敗戦で徴兵は逃れたのだが、「成人の日」が制定される前に二十歳は過ぎてしまった。生まれあわせがよかったような、そうでもないような……。この世代独特の苦笑である。『昨日少年』所収。(清水哲男)


January 1411997

 うしろより外套被せるわかれなり

                           川口美江子

(き)せかけている相手は、もちろん異性だろう。もう二度と会うこともないであろうその人に未練などはないはずなのに、二人の間の習慣的な仕草のうちに、ふと胸を突いてくる心残り……。たった十七音のなかに込められた万感の思いが、読者にも確実にドラマチックに手渡されてくる。ここが、俳句の凄いところだ。詩では、こういうことは書かない。書けないから、書かないのである。(清水哲男)




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