1997N216句(前日までの二句を含む)

February 1621997

 独活食へば胃の透きとほるものらしく

                           日置海太郎

活(うど)の天麩羅は美味。最近出会った独活づくり三十年の人が、そう言っていた。私は、味噌汁に入れるのが好きだ。句に象徴されているように、胃腸の働きにもよいらしい。ダイエット効果もあるという。いまでは年中出回っているが、本来は春が旬である。「そうですよね」と独活づくりの人に聞いたら、「そうらしいですね」ととぼけられてしまった。商売の人だからだ。どっこい、こちらは山の子だったから、そういうことはちゃんと知っている(もっとも、その人には言わなかったけれど……)。なお、俗に言う「東京うど」の発祥地は、江戸期の吉祥寺村(現在の武蔵野市)で、もともとは「吉祥寺独活」と呼ばれていた。(清水哲男)


February 1521997

 あの木ですアメリカ牡丹雪協会

                           坪内稔典

典句の傑作は数あれど、私なりのランキングでは、ベスト・スリーに入っている。意味不明なれども、一句が喚起する物語性が心地よい。一度も体験したことがない「懐しさ」。妙な言い方になるけれど、そんな雰囲気が伝わってきませんか。実は、今日この句を掲出するにあたって原典にあたりたかったのだが、句集が室内で行方不明。記憶のみに頼った引用となった。表記が間違っていない自信はあるのですが、ひょっとして……の場合、後日訂正します。(清水哲男)


February 1421997

 薄曇る水動かずよ芹の中

                           芥川龍之介

かにも龍之介らしい鋭い着眼。この句は、芹を詠んでいるようでいて、詠んではいない。芹という清澄な植物に囲まれた水のよどみを詠むことによって、おのが心の屈折した水模様を描き出している。ただし「上手な句」ではあるけれども、芹(自然)とともに生きている感覚はない。同じ「芹の中」を詠んだ作品でも、蕪村の「これきりに径尽きたり芹の中」の圧倒的な自然感からは、遠く隔たっている。まったくもって「うめえもんだ」けれど、どこかで読者を拒んでいる雰囲気を感じるのは、私だけであろうか。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます