February 181997
弟は漫画が好きで春の風邪
田野岡清子
いいですね、こういう姉と弟との関係は……。熱があるのだからおとなしく寝ていればよいものを、いつの間にか起き上がって漫画本に見入っている弟。「しょうがないわねえ」と苦笑する姉。風邪は風邪でも、春の風邪はどこか陽性である。もっとも、いま流行のインフルエンザだと、熱が高すぎて漫画どころではないけれど。なお、俳句では「風邪」の表記だけだと季節は冬になる。(清水哲男)
February 171997
熊の子も一つ年とり穴を出づ
三橋敏雄
理屈だけで読むと「当たり前じゃないか」というしかない句。だが、何度も舌頭でころがしているうちに、だんだん味がわかってくる。噛めば噛むほどに、味が出てくる。「熊の子も」の「も」が指差しているのは、他の冬眠する生物はもちろんだが、私たち人間の精神的な生活をも含んでいるようだ。でも、それを深刻に受け取るかどうかは読者の自由にゆだねられていて、いかにも俳句的な表現の妙を感じさせられる。「可愛らしい」と読んでもいいし、もっと生臭く読んでもいい。「俳句研究」(1997年3月号)所載。(清水哲男)
February 161997
独活食へば胃の透きとほるものらしく
日置海太郎
独活(うど)の天麩羅は美味。最近出会った独活づくり三十年の人が、そう言っていた。私は、味噌汁に入れるのが好きだ。句に象徴されているように、胃腸の働きにもよいらしい。ダイエット効果もあるという。いまでは年中出回っているが、本来は春が旬である。「そうですよね」と独活づくりの人に聞いたら、「そうらしいですね」ととぼけられてしまった。商売の人だからだ。どっこい、こちらは山の子だったから、そういうことはちゃんと知っている(もっとも、その人には言わなかったけれど……)。なお、俗に言う「東京うど」の発祥地は、江戸期の吉祥寺村(現在の武蔵野市)で、もともとは「吉祥寺独活」と呼ばれていた。(清水哲男)
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