G黷ェtフ海句

March 2331997

 菜の花や月は東に日は西に

                           与謝蕪村

から二百年以上も前の俳句の一つがいつ詠まれたか日付までよくわかっているものだと半信半疑であるが、これが本当なら「菜の花や…」は蕪村四十八歳の作だ。天文学的考証をすれば、旧暦の十四日か十五日の情景を詠んでいることになる。それはともかく、蕪村は画家だけあって、この句も非常に絵画的である。放浪生活ののち俳句にのめりこみ、「芭蕉に復(かえ)れ」の主張の下、俳諧復興の指導者となった。絵も俳句もやり始めるととことん極める人で、才能だけに甘えず勉強を怠らなかった。その結果が非常に単純明快な言葉に落ち着いているのがニクイ。単純明快はたやすいようで、むずかしいのだ。わが故郷、神戸の須磨浦海岸へ行くと、蕪村のこれまた有名な句「春の海ひねもすのたりのたりかな」の碑が建っている。春の瀬戸内海はまさに、この句を絵にかいたようなものだった。(松本哉)

*この有名な句は、安永三年(1774)の今日(旧暦・2月15日)詠まれたと伝えられている。(編者註)


February 0522009

 春の海地球に浮きし船の数

                           渡部ひとみ

の海はおだやかでのどか。ひゅーるるると頭上を鳶が飛んでゆくのも嬉しい。寒い北風に封じ込められていた海の中でも生き物たちが動きはじめる。そんな春の海に船の取り合わせは平凡に思えるが、それを「地球」サイズの大きさに広げたことで、暗黒の宇宙に浮かぶ地球そのものもあまたの船を抱え込む船に思えてくる。青く静まる海にどれだけの船が浮かんでいるのか、考えるだけで気の遠くなる思いだが、貨物船、客船、屋形船、ヨットからカヌーまで、それぞれの船に似合いの海の名前、その色を想像してみるのも楽しい。作者は写真家でもあり、CDジャケットの大きさの句集はさまざまな写真に彩られている。掲句には東京タワーを彼方に見下ろした東京の景観が取り合わせてある。こうした構成には、読み手が俳句から広げるイメージを損なわないよう句と写真を組み合わせるセンスが必要なのだろう。ページをめくるたびその妙が楽しめる一冊になっている。『再会』(2008)所収。(三宅やよい)




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