April 291997
おだまきの花より美しきひとめとらむ
牧ひでを
観賞用に栽培されているが、詩歌に出てくるのは、ほとんどが高山に自生するミヤマオダマキ(深山苧環)だ。たとえば、萩原朔太郎「夜汽車」の「ところもしらぬ山里に/さも白くさきてゐたるをだまきの花」など。仲春から初夏にかけて、白色または青紫色の花を下向きに開く。花の形は「苧環」(つむいだ麻糸を玉の形に巻いたもの)に似ている。一見地味で清楚なたたずまいだが、よく見るとなかなかに艶っぽい花でもある。そこで、この句が生まれたのだろう。「美しき」は「はしき」。(清水哲男)
July 232010
一雲かぶさる真夏の浜辺に村人と
牧ひでを
一読黒田清輝の画のような平和な漁村の風景が浮ぶが、前書きを読むと様相は一変する。「広島へ四〇キロというふるさとにて原爆を受けし朝」。雲はキノコ雲であった。平和な時間を刻んでいるとしか思えない風景が実は凄惨な事実を孕んでいるというのは、まさしく近代の恐怖そのものだろう。牧ひでをさんは70年代の「寒雷」東京句会には必ず顔が見えた。楸邨の隣に座って言葉を区切りながらゆっくりと話す実に温厚な白髪の紳士であった。怒るように叫ぶように自己を表現する俳人は「寒雷」に多かったが、ひでをさんのように柔らかな言葉の語り口を持った人は稀であった。だからこそ、この句に込められた驚きと怒りの深さを思うのである。『杭打って』(1970)所収。(今井 聖)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|