1997ソスN6ソスソス23ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

June 2361997

 短夜や壁にペイネの恋かけて

                           上田日差子

春俳句の傑作。「恋かけて」という言い回しが、とても新鮮だ。短夜(みじかよ)を恨みたくなるほどに、青春の時は過ぎやすい。比べて、レイモン・ペイネの描いた恋人たちの永遠性はどうだろう。見れば見るほど、羨望の念がつのってくる。と同時に、みずからの恋する心が満たされる日のことも画像に重なってくるのだから、またしても壁のペイネを見やってしまうのである。いいですね、この乙女心は。技巧を感じさせない句の素直さで、なおさらに。(清水哲男)


June 2261997

 ほうたるや闇が手首を掴みたり

                           藤田直子

句があるような気がする。あっても一向に構わないが、そんなふうに私が感じたのは、この闇の中の感性が女性特有のものであり、共通する感性が生んだ句をいくつも読んで啓蒙されてきたからだろう。幻想か、現実か。それはどちらでもよいのだし、どちらでもないのかもしれない。いずれにしても、闇が女を確実に女にすることがあるということだ。それにひきかえ、男の蛍見物などは、まことにもって無邪気なものである。男はむしろ、闇の中で幼児化してしまう。『極楽鳥花』所収。(清水哲男)


June 2161997

 ぶつぶつ言う馬居て青葉郵便局

                           加川憲一

者は北海道の人。北海道は競馬馬の産地だが、この場合は脚の太い農耕馬だ。都会の郵便局と違って、田舎のそれはちょっとした社交場でもあり情報集積所でもある。貯金を引き出しに行って、ついつい局員と話しこんでしまったりする。そんなご主人を待ちかねて、馬がぶつぶつ文句を言っている図。周囲には濡れるような青葉。そして昔ながらの赤い郵便ポスト。詠まれてはいないがこのポストの赤は重要で、馬の濃褐色と青葉の緑にポストの赤が加わることで、絵に描いたような牧歌的風景が完成する。微笑して作者は、もう一度馬を見やり郵便局の戸口に目を向けたところだ。それにつけても、梅雨のない北海道は羨ましい。この句は、金子兜太が主宰する俳誌「海程」の掲載句を論じた『現代俳句観賞』(飯塚書店・1993)に載っている。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます