June 241997
尺蠖の時を惜しまず戻りけり
なかのげんご
尺蠖(しゃくとり)は尺取虫。なるほど、こいつはいつも悠々と尺を取って歩いている。時間の観念を感じさせない。子供の頃はこちらも暇だったから、いつまでも飽きずに眺めていたっけ。まさか大人になってから、分秒単位の仕事に就くなどとは、夢にも思わなかった。ラジオの仕事をはじめる前に、情報番組のパーソナリティとしては草分けの片山竜二(故人)さんのお宅にうかがう機会があった。身体を悪くして引退された時期のことで、見ると、お宅の掛け時計の文字盤には数字がなかった。もちろん、秒針もない。「分だ秒だなんて、もうイヤだからね」と話されたが、しかし口調はどこか寂しげだった。分秒の毒がまわると、ちょっとやそっとでは尺蠖の境地には至れないのである。『問名集』所収。(清水哲男)
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