July 191997
そのむかし繭の金より授業料
有賀辰見
いまのような兼業農家は別だが、そのむかしには農家が現金収入を得る季節は限られていた。養蚕農家なら夏、水田農家なら秋という具合だ。したがって、授業料のようなまとまった出費は、金の入る季節まで待ってもらうしかない。いまや自分で生産したものだけを売って暮らす感覚は、特に大都会の人には理解できないだろう。逆に言えば、毎月何を具体的に生産しているかもわからずに、現金収入があるというのは不思議なことだった。現代の情報産業などはその典型的なサンプルである。それこそそのむかし、マルクスは可視的な労働と対価をとっかかりにして『資本論』を書いたが、実感なき労働対価が主流の世の中では、もはや相当に難解な書物になってしまったのではあるまいか。「俳句文芸」(97年7月号)所載。(清水哲男)
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