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August 2081997

 指し数ふ麻座布団の昼の席

                           北野平八

かの会合の流れだろうか。まだ日も高いし、別れがたい七、八人が軽く一杯やろうかという話になった。よくあることだが、こういうときにはたいてい自然発生的に幹事役になる男がいて、二階に座敷のある店を知っていたりする。で、ここからが人間の妙なところで、座敷に通されるや、彼はいちいち指差しながら座布団の数が足りているかどうかを確認するのだ。でも、その場にいる誰もが「子供じゃあるまいし……」などとは思わない。むしろ、自分でもそうしたいくらいな心持ちになる。だから、いやでも座布団が麻であることを認識させられてしまうのである。楽しい夏の午後のひとときの気分がよく出ている。かくのごとくに、俳句の材料はどこにでも転がっているという見本のような句でもある。『北野平八句集』所収。(清水哲男)


July 1372000

 藺ざぶとん難しき字は拡大し

                           波多野爽波

は「い」と読み、「藺ざぶとん」は藺草(いぐさ)で織った夏用の座布団のこと。よく見かける座布団で、四角いものも丸いものもある。なるほど「藺」という字は難しい。何気なく尻に敷いている「藺ざぶとん」だが、ふと「藺」というややこしい漢字が気になったので、調べてみたのだろう。でも、辞書の文字が小さくて、よく見えない。早速、天眼鏡で拡大してみて、ははあんとうなずいている。最近は、いつもこうだ。だいぶ視力が衰えてきたなア。そんな思いを、深刻めかさずに詠んでいる。テーマが「藺ざぶとん」そのものにはなく、名前の一文字であるところから、とぼけた味わいが浮かんでくるのだ。多くの読者にとっては、どうでもよいようなことであり、もとより爽波もそんなことは承知の上で作っている。これぞ、人をクッた爽波流。そういえば辻征夫(俳号・貨物船)にも似たような才質があって、たとえば「つという雨ゆという雨ぽつりぽつり」であるが、上手いのか下手なのか、さっぱりわからない。でも、確実にとぼけた良い味は出せている。『一筆』(1990)所収。(清水哲男)




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