October 261997
けふ貼りし障子に近く墨を摺る
山口波津女
障子を張りかえると、部屋の中が明るくなって新鮮な気分になる。その新鮮な気分で、作者はこれから物を書こうとして墨を摺(す)っている。ぴいんと張り詰めた気持ちのなかにも、どこか安らぎが感じられる句だ。障子貼りはあれでなかなか大変で、襖貼りほどではないにしても、けっこう神経の疲れる労働だ。子供の頃にはよく貼らされたものだが、不器用なので失敗ばかりしていた。我が家もそうだが、いまでは障子のない家庭も多い。子供たちは障子紙も知らないし、ましてや紙は障子の下方から貼っていくなどというテクニックも知らない。知らなくても不都合はないが、こうした句を味わえない不都合はある。白石三郎に「話しつつ妻隠れゆく障子貼」の一句。こんな日常茶飯事も、都会ではもはや懐しい光景となりつつある。(清水哲男)
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