November 171997
寝るだけの家に夜長の無かりけり
松崎鉄之介
年中多忙で飛び回っている人にとって、家は単に寝に帰るだけの場所だから、なるほど「夜長」もへちまもない理屈である。物理的時間的な余裕のなさもさることながら、精神的にも「夜長」を味わうことのできない日常。猛烈サラリーマンの時代は去ったとはいえ、まだまだ働く男たちのなかには、このような心情の持ち主も多いのではなかろうか。自嘲の句であるが、諦めと怒りの感情が交錯しているようなところが味わい深い。季語「夜長」の常識的な抒情を逆手にとった面白さ。作者は大野林火を継いでの俳誌「濱」の主宰者である。『巴山夜雨』(1995)所収。(清水哲男)
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