December 011997
十二月遁れて坐る落語席
野地新助
まさか借金取りから遁(のが)れて寄席に来たのではあるまい。だとしたら、作者のほうが落語の主人公になってしまう。些事やら大事やら、とにかく十二月は忙しい。とてもじゃないが、どんなに按配しても、時間のやりくりがつかなかったりする。そんなときに、人は妙な行動をとることがある。作者のように、不意に寄席に飛び込んじまったりするのである。私にも経験があるが、そんな暇なんぞはこれっぽっちもないのだけれど、ぼおっと落語を聞いていたりするのだ。多少とも「アトは野となれ」の心境でもあり、ここを出たら頑張ろうと自分に言い聞かせながらの執行猶予の時間なのである。師走の寄席で人気の演目は、なんといっても「芝浜」だろう。博打打ちにして大酒飲みだった桂三木助(読んでないけれど、山本昌代の『三世桂三木助』という本が新潮社から新刊で出ている)の「芝浜」は絶品だった。今夜9時30分からNHKラジオの「ラジオ名人寄席」でその「芝浜」が放送される。演者が三木助なのかどうか。先週の予告を聞き漏らしてしまったが、はじめての人には、聞いておいてソンはない噺である。(清水哲男)
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