q句

December 07121997

 十二月まなざしちらと嫁ぎけり

                           中尾寿美子

二月に結婚式を挙げるカップルは少ないだろう。短くない私の人生でも、一度も出合ったことがない。相手方の急な転勤話など、よほどの事情でもないかぎり、この忙しい時期の結婚式は顰蹙をかうことになる。この句の場合はどうなのだろうか。その事情のほどは、花嫁の「まなざしちらと」に万感の思いとして秘められている。もちろん、作者には事情が飲み込めているのだろう。たぶん、列席者も多くはない淋しい式である。だからこそ、花嫁にはより幸せになってほしいと、作者は切に願っているのだし、共に句の読者もそう思うのだ。(清水哲男)


January 1212000

 穴あらば落ちて遊ばん冬日向

                           中尾寿美子

に落ちたことで、世界的に有名になったのは「不思議の国のアリス」だ。日本で知られているのは、昔話「おむすびころりん」に出てくるおじいさん。穴に落ちたことでは同じだけれど、両者の心持ちにはかなりの違いがあるようだ。アリスの場合には「不本意」という思いが濃く、おじいさんの「不本意」性は薄い。アリスは不本意なので、なにかと落ちたところと現世とを比べるから、そこが「不思議の国」と見えてしまう。一方、おじいさんはさして現世を気にするふしもなく、暢気にご馳走を食べたりしている。この句を読んで、そんなことに思いが至った。作者もまた、現世のあれこれを気にかけていない。一言でいえば、年齢の差なのだ。このときに、作者は七十代。「穴掘れば穴にあつまる冬の暮」という句も別にあって、「穴」への注目は、ごく自然に「墓穴」へのそれに通じていると読める。ひるがえって私自身は、どうだろうか。まだ、とてもこの心境には到達していないが、わかる気はしてきている。そういう年齢ということだろう。遺句集『新座』(1991)所収。(清水哲男)




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