December 111997
燃えつきし焔の形シクラメン
田川飛旅子
明治時代に渡来した外国花。別名を「篝火花(かがりびばな)」という。この句のとおりに、燃え尽きる直前の焔(ほのお)が、パッと明るくなるような美しい姿をしている。しかも、こちらの焔は長持ちする。私の好きな花のひとつだ。クリスマス近くになると花屋の店先を飾るので、冬の花と思っている人も多いだろうが、元来は春の花だ。したがって、季語も春。布施明に「シクラメンのかほり」という歌があって、いったいシクラメンに香りがあるものかどうかと話題になったことがある。物好きとしては花びらに鼻をくっつけてかいでみたが、まずは無臭というべきであろう。ところで、イタリアではシクラメンの球根を放し飼いの豚が食べるので、「豚の饅頭」と言うそうだ。だから、この歌だけはイタリア語に翻訳しないほうがよさそうである。(清水哲男)
April 181998
シクラメンたばこを消して立つ女
京極杞陽
最近はクリスマス頃に出回るので、シクラメンを冬の花と思っている人もいるようだが、本来は春の花だ。わが「むさしのエフエム」の窓辺でも、小さいながらいまを盛りと咲いている。句は、喫茶店の情景だろう。まだ人前で喫煙する女性が珍しかった時代(1941年・昭和16年)の句で、華麗なシクラメンとの取り合わせが、いかにも「大人の女」を連想させる。今風に言えば、美貌のキャリアウーマンが煙草を消してスッと席を立ったというところか。往年の人気雑誌「新青年」の小説の一シーンみたいでもある。いかにも格好がよろしい。ところで、喫煙の是非はおくとして、近頃は煙草を吸う若い女性が非常に目立つようになってきた。吸いながら、街頭を闊歩している。ひところのパリみたいだが、残念なことには、ほとんどの女性が煙草に似合っていない。吸い方がなってない。だから、みんな煙草に飢えたニコチン中毒患者のように見えてしまう。あの不格好な吸い方だけは、何とかならないものだろうか。『くくたち上巻』(1946)所収。(清水哲男)
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