December 311997
その前に一本つけよ晦日蕎麦
鷹羽狩行
蕎麦は酒(なんで酒をわざわざ「日本酒」と特定していわなきゃいけないんだ)に限る。もっとも評者は蕎麦焼酎を呑んでいるし、いままではずっと蕎麦にビールだったから、大きなことは言えない。しかし、こういう句はいいなあ。大いに助かります。狩行句は、こういう世界でも天下一品。向かうところ敵なしです。あやかってこちとらも作りたいのだが、余裕というものがないのですね。特に年末など……。『俳句 俳句年鑑一九九八年版』の[私が選ぶ「新しい」句BEST5]藤田あけ烏選より。(井川搏年)
December 312014
なにはさてあと幾たびの晦日蕎麦
小沢昭一
平成17年12月の作。昭一はこの年76歳で、元気そのものだった。同年6月の新宿末広亭の高座に、初めて10日間連続出演して話題になった。連日満員の盛況だった。私は23日に聴いた。演題を「随談」として、永六輔の顔がいかに長いか、そのほか愉快な談話で客を惹きつけた。最後は例によって、ふところからハーモニカを取り出しての演奏になった。笑いあふれる高座だった。ところで、「晦日蕎麦」の風習は今もつづいているようで、12月になると、蕎麦屋には「年越し蕎麦のご予約承ります」というビラが貼り出される。私も大晦日には新潟風のいろんな料理をつついて酔っぱらったあげく、いつも蕎麦を食べてから沈没するのが恒例となっている。齢を重ねれば、誰しも「あと幾たび」とふと考えることが増えるのは当たり前。なにも「晦日蕎麦」に限ったことではない。他人事ではない詠みっぷり、さすがに昭一らしい。「なにはさて」という上五がうまい。氏はその後、(計算では)亡くなる年まで七回「晦日蕎麦」を食したことになる。掲出句とならんで「黄泉路川(よみじがわ)小巣越すも越さぬも春の風」がある。『俳句で綴る変哲半世紀』(2012)所収。(八木忠栄)
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