日比谷で会合があったので、ひさしぶりに電車に乗った。電車に乗ると緊張します。




1998ソスN4ソスソス16ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

April 1641998

 菜の花の中を浅間のけぶり哉

                           小林一茶

風駘蕩。ストレス・ゼロの句。現代人も、こんなふうに風景を見られたら素晴らしいでしょうね。そして、こんなふうにうたうことができたとしたら……。浅間は、大昔から歌や物語に登場する名山です。が、広田二郎さんという国文学者の調べたところでは、『新古今集』の在原業平以来、例外なく信濃の住人以外の人が、この山をうたってきたのだそうです。つまり、地元の人としてうたったのは一茶がはじめてということで、文学史的にも価値のある一句ということになります。浅間の煙も地元の人にとっては、日常的にすぎてうたう気になどなれなかったのでしょうか。それにしても、最近は菜の花畑が見られなくなりました。信州にしても、もうこんなに広大な畑はないでしょう。どこかに残っていないかと思っていた矢先、昨日届いた「フォトやまぐち」(山口県広報連絡協議会)に、見渡すかぎり菜の花ばかりという秋穂町の風景写真が載っていました。山口県はわが故郷。トウダイモトクラシ。(清水哲男)


April 1541998

 闇に鳥を放つ痛みや投函す

                           佐藤清美

かにも若い女性らしい作品だ。二十代の句。投函したのはラブレターだろうか、それとも絶交の手紙だろうか。いずれにしても、推敲を重ねた文面ではないだろう。思いのタケを一気に書きつづったもので、だからこそ「闇に鳥を放つ」ような気分になっている。「闇に鳥を放つ」と、いったい鳥はどうするのだろうか。どうなるのだろうか。そんなことは、もちろん作者にはわからない。想像すること自体が、怖いことでもある。ましてや、この「鳥」を受け取る相手の反応などは、それこそ「闇」の中だ。作者の心の内には、そんな若さと荒々しい情念とが同居していて、この勢いにはかなわないなと思う。青春のひとつのかたちを力強く描いており、これからが楽しみな才能である。無季。『空の海』(1998)所収。(清水哲男)


April 1441998

 たばこ吸ふ猫もゐてよきあたたかさ

                           嵩 文彦

者は北海道札幌市在住。医師にして現代詩人。私と同世代で、最近は詩よりももっぱら俳句に力を入れているようだ。北海道の春の訪れは遅いので、暖かくなってくる喜びには、私のような「本土」に住む人間には計り知れないものがあると思う。だから「たばこ吸ふ猫」がいたっていいじゃないかと思えるほどに、嬉しい気分はほとんど天井知らずの高さにまで跳ね上がっている。そこで読者もまた、作者と同じ気分になって嬉しくなってしまうのだ。そういえば谷岡ヤスジの漫画に、煙管を銜えた呑気な牛が出てくるが、煙草を吸う猫も、ぜひとも彼に描いてもらいたくなった。ヒトとネコが一緒に煙草を吸いながら、あれこれと語り合う春のひととき……。うん、こいつは絶対にケッサクな漫画になるぞ。『春の天文』(1998)所収。(清水哲男)




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