May 171998
満塁や青芝遠く緊張す
佐久間慧子
私の知るかぎり「満塁や」と詠んだ句はこれまでにない。珍品(?)である。作者は阿波野青畝門で関西の人らしいから、甲子園球場だろうか。ドーム球場の人工芝とちがって、天然の青芝はあくまでも目にやさしい。見つめていると、ぼおっと芝生に酔ってしまうときもあるほどだ。そんななかで、ゲームは満塁という緊迫感。こうなると、熱狂的な野球好きであれば、芝生なんぞは目に入らなくなるはずだが、作者は遠くの青芝をうたっている。つまり、作者はそんなに野球そのものに熱が入らない人だと見た。いつのころからか、歳時記には「ナイター」などという和製英語の季語も載るようになったけれど、そうした季語の用例に引かれている句を見ても、シンから野球の面白さを伝えている句を、残念ながら見たことがない。能村研三に「ナイターの風出でてより逆転打」と、多少マシな句もあるが、これとても私には呑気すぎて到底満足とまではいかないのである。もっともっと野球に没入した作品を探している。「俳句文芸」(1998年5月号)所載。(清水哲男)
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