June 171998
バナナむく吾れ台湾に兵たりし
鈴木栄一
かつての戦争とバナナとは、イメージ的に強烈な結び付きがあった。作者のように、兵隊として実際に台湾バナナを食べた人もいるけれど、多くの国民にとっては、バナナは南洋の夢の食べ物として垂涎の的なのであった。島田啓三の漫画『冒険ダン吉』にも盛んにバナナが登場し、庶民にとっては日本の南方進出の象徴としての食べ物だったわけだ。「青いバナナも黄色く熟れて……」という歌も流行したが、しかし、戦争中の国内でバナナを口にできた人は少なかったはずである。私のように『冒険ダン吉』の絵でしかバナナを知らない子供も多かったろう。それでも、わずかに乾燥バナナだけは出回っており、その干涸びたバナナでも美味は美味だった。敗戦後しばらくの間はその乾燥バナナさえ姿を消してしまったが、高校時代に偶然、立川駅の売店で発見したときは嬉しかった。買ってみると、包装紙にはなにやら英語が書いてあって、アメリカ軍御用達の趣きがあったことを覚えている。戦時中の日本のそれも、軍隊の保存食用に開発されたものではないかと思う。バナナと戦争。詳しく調べれば、興味深いノンフィクションが書けるかもしれない。(清水哲男)
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