July 301998
ラムネ抜けば志ん生の出の下座が鳴る
今福心太
イキですねえ。いいですねえ。夏の寄席には、ちょっと安っぽくて野暮な感じのラムネが似合います。しかもこれから、高座は天下の志ん生ですよ。噺を聞く前から楽しい気分になっている作者の気持ちが、よく伝わってきます。ラムネはサイダーとほとんど同じ成分だそうですが、なんといっても嬉しいのは瓶の形状ですね。どう言ったらよいのか。あの「玉入りガラス瓶」は、そんなに美味とは言えない中身を凌駕して余りある魅力を保持してきました。パッケージ人気で売れた元祖みたいな商品でしょう。数年前にラムネ人気が息を吹き返したこともありましたが、プラスチック製の瓶では、やはり駄目だったようですね。機能的には同一でも、手にしたときの重さだとかガラス玉とガラス瓶の触れ合う音が、まったく違います。こういう句を読むと、昔はよかったんだなと、つくづく思います。寄席には、冷房なんぞというシャレた仕掛けもなかった時代に、しかし、客の楽しみは現代よりももっともっとふんだんにあったというわけですから。「庶民的」という言葉が、文字通りに生きていた時代の句です。(清水哲男)
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