December 141998
又例の寄せ鍋にてもいたすべし
高浜虚子
今夜、客がある。「何にしましょうかね」と家人に相談されて、寒い折りでもあるから「又例の寄せ鍋」にしようかと答えた文句を、そのまま句にしてしまっている。こんなものが「俳句ですか」「文学なりや」と、正面から生真面目に問われても困るが、ま、虚子句の魅力の一つは、こうした天衣無縫な詠みぶりにあることだけは確かだ。このあたり、子規の句境とも共通している。ただし、虚子という大きな名前によりかかって、はじめて「俳句」と認知されるところがないとは言えないけれど……。でも、この句は「寄せ鍋」の単純な楽しさを予感させる意味では、なかなかに優れている。楽しさの正体は、たとえば「沸々と寄せ鍋のもの動き合ふ」(浅井意外)という「何でもあり」の鍋物そのものに見えている。そして「例の寄せ鍋」を喜んで食べてくれるはずの、「何でもあり」の気のおけない客を待ちかねる雰囲気も、句から十分に読み取れる。寄せ鍋は昔「たのしみ鍋」とも言ったそうだ。材料によって贅沢にも質素にもできるのが妙だが、いずれにせよ鍋物の美味い不味いは、おおむね誰とつつくかで決定される。句が暗示している客は、間違いなく歓迎されている。(清水哲男)
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