April 181999
朝寝しておのれに甘えをりにけり
下村梅子
季語は「朝寝」。「春眠」と共通する世界であり、したがって春の季語とされてきた。なんでもないような句だけれど、一読、鋭い描写力だと(本当に)膝を打った。「おのれに甘えをりにけり」とは、なんと正確な心持ちの復元であろうか。たしかに、とろとろと半睡状態にある朝寝では、「おのれ」を甘やかしているのではなくて、このように「おのれ」に甘えているというのが正しいと思う。普通の行為では、なかなかそんなことはできない。しばしば自分を甘やかすことはあるにしても、自分を頼りにして甘えるなんてことは、ほとんど不可能に近い。句の「朝寝」は半睡状態だから、自分自身を半分ほどは他者のように認識できるということだろうか。単に、ずるずると寝ているのではない。半分は覚醒している自分に、甘ったれて寝ているのだ。甘美な認識といおうか、誰にも自然に訪れる癒しのメカニズムといおうか……。とにかく、朝寝の正体は、多くこういうことであるだろう。それにしてもこの季節、一度目覚めてから、またとろとろと眠る時間は、どうしてあんなに心地よいのでしょう。やはり、自分に甘えていることから来ているのでしょう……か。『沙漠』(1982)所収。(清水哲男)
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