June 131999
柿若葉大工一気に墨打ちす
木村里風子
見ていて面白い仕事に、プロの大工仕事がある。鉋(かんな)をかけたり鋸で引いたり、組み立てて釘を打ったりする様子は見飽きない。一つ一つの技の見事さが、心地好いのだ。技がわかるのは、見る側に曲がりなりにも同じ作業の体験があるからで、一度も鉋をかけたことがない人には、大工の鉋かけも単純で退屈な様子にしか見えないだろう。最近は見かけなくなったが、「墨打ち」にも素人と玄人との差は歴然と出る。「墨打ち」は板をまっすぐに切るために、あらかじめ墨汁を含ませた糸で板に線を引いておく作業だ。これには「墨壷(すみつぼ)」という道具を使う。「墨壷」を見たことがない読者は、手元の事典類を参照してほしい。小さな国語辞書にも、メカニズムの解説は載っている。板の上にピンと張った糸をただ弾くだけの作業だが、素人がやると付けた線の幅がなかなか一定にならず、後で鋸を使うときに往生することになる。そこへいくと句の大工の技は確かなもので、一発でぴしりときれいな線を決めた。つやつやと照り返る柿若葉の下での作者は、大工のつややかな名人技にもうっとりとしている。(清水哲男)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|