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June 2761999

 瓜の種噛みあてたりし世の暗さ

                           成田千空

は瓜といえば「胡瓜(キュウリ)」をさしたそうだが、今では瓜類の総称とする。「トウナス」も「ヘチマ」も瓜である。作者は現代の人だから、この場合は「マクワウリ」だろう。種をちゃんとよけて食べたつもりが、噛みあててしまった。その不愉快な気持ちが、「そう言えば」と世の中の暗さに行きあたっている。最近はロクなことがない、イヤな世の中だと独白したのかもしれない。ところで、作者の言う「世」とは、何をどのようにさしているのだろうか。普通に読んで「世の中」や「世間」、あるいは「社会」と受け取れるのだが、それはそれとして「世」ほどに厄介な概念も少ないなと、いつも思う。例えば私が「世」と言うときに、私の指示する「世」と相手が受けとめる「世」の概念とは、必ずしも符合するとは限らないからだ。「世」のひろがりを自然に世界情勢に結びつける人もいれば、ひどく狭い範囲でとらえる人もいる。お互いに「暗いね」とうなずきあっても、本当はうなずきあったことにはならない。滑稽ではあるが、こういうことは「世の中」でしょっちゅう起きている。ま、「世の中」とはそうしたものかも……。(清水哲男)


June 2962010

 瓜食んで子どもら日照雨見てゐたり

                           足立和信

照雨(そばえ)は細照雨とも書き、太陽が出ているのに降る小雨のこと。掲句では、きらきらと明るい降雨が、子どもたちの遊びのちょっとした休憩となって、縁側あたりに並んで雨があがるのを待っている。子どもにとって苦手な雨や、退屈な待ち時間でありながら、がっかりした様子が見えないのは、彼らにもこれがすぐ止むことが分かっているからなのだろう。「そばえ」には戯れたり甘えたりする意味もあるというから、子どもたちには一層親しい雨である。外の遊びを半ばで中断されたために体中にまとわりついている熱気が、瓜で冷やされていく様子は、無尽蔵のパワーメモリがみるみる補充されていくかのようだ。本句集の序文で森澄雄氏は掲句を取りあげ、山上憶良の「瓜食めば子ども思ほゆ栗食めばまして偲はゆ いづくより来りしものぞ まなかひにもとなかかりて安眠し寝さぬ」の子を思う歌が敷かれていると書く。そして、この万葉集の長歌に続く反歌こそ、ことによく知られた「銀(しろがね)も金(こがね)も玉も何せむに まされる宝 子にしかめやも」である。とりたてて特別でない日常の風景が、親にも子にも忘れがたい一瞬となって、それぞれの記憶に刻印される。『初島』(2010)所収。(土肥あき子)


August 0682011

 畳より針おどり出ぬ蠅叩

                           齋藤俳小星

元文庫の『現代俳句全集 第一巻』(1953)を読んでいた。八月六日の句に出会えないものか、と思ったのだがなかなかめぐり会えず、それとは別に今や非日常となった季節の言葉を詠んだ句の数々に興味を惹かれた。掲出句の蠅叩、少なくとも都会ではとんと見かけない。子供の頃は、夏とセットだった蠅。蠅取り紙のねばねばや蠅帳は、仄暗い台所の床の黒光りとこれまたセットで思い出される。思いきり叩くと、畳の弾力が蠅を仕留めた実感を伝えるのだが、その勢いで、畳から縫い針が飛び上がったという瞬間、作者の一瞬の表情が見える。針の数を数えなさい、落ちている針を踏んで血管に入ったらあっという間に脳へ行って死んでしまうのよ・・・そう言われて、子供心に恐かったのを思い出すが、畳に落ちた針は、特に畳の目にはまってしまうとなかなか見つからない。ちなみに、作者の俳号、俳小星(はいしょうせい)は、「はい、小生」、という名告りの語呂合わせだとか。〈灯を消せば礫とび来ぬ瓜番屋〉〈家の中絹糸草の露もてる〉(今井肖子)


August 2382012

 瓜ぶらり根性問はることもなし

                           山中正己

リンピックも終わり、銀座ではメダリスト達のパレードもあった。連日の熱戦を楽しませてもらったものの敗れた選手の立場を思うと「大変だなぁ」と思うことたびたびだった。「メダルをとれずにすみませんでした」と泣きながら謝っていた柔道の選手がいたが国の代表になって「根性を問われる」ことはしんどいことだ。その点、ぶらりとぶら下がって風に吹かれる瓜は気楽なものだ。瓜と言ってもいろいろあるが「ぶらり」なのだから胡瓜かヘチマだろうか。支えの棒や組み立てた棚へ蔓をからませて気が付けば「食べてください」とばかりにおいしそうな実をぶらさげている。「根性を問われる」ことも「叱咤激励」されることもなく身を太らせて気楽なものである。掲句がそんな瓜の在り方に羨ましさを感じている作者の気持ちの反映であるとすると、怠け者の私なぞも同感である。『地球のワルツ』(2012)所収。(三宅やよい)




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