July 301999
暑気中りどこかに電気鉋鳴り
百合山羽公
猛烈な暑さが身体に命中してしまった。いわゆる「暑さ負け」(これも季語)の状態が「暑気中り(しょきあたり)」だ。夏バテよりも、もう少し病気に近いか。夏には元気はつらつとした句が多い反面、とても情けない句も結構たくさんある。「暑気中り」をはじめ、「寝冷え」「夏の風邪」「水中り」「夏痩」「日射病」「霍乱(かくらん)」「汗疹(あせも)」など、身体的不調を表現する季語も目白押しだ。不調に落ち込んだ当人は不快に決まっているが、傍目からはさして深刻に見えないのは、やはり夏という季節の故だろう。掲句もその意味で、作者にとってはたまったものではない状態だが、元気な人にはどこかユーモラスな味すら感じられるだろう。そうでなくともぐったりとしている身に揉み込むように、どこからか電気鉋(かんな)のジーッシュルシュルというひそやかな音が、一定のリズムのもとに聞こえてくる。辛抱たまらん、助けてくれーっ、だ。皆吉爽雨には「うつぶして二つのあうら暑気中り」があって、こちらの人は完璧にノビている。こんな句ばかりを読んでいると、当方が「句中り」になりそうである。(清水哲男)
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