August 161999
ナフタリン痩せ夏休み半ば過ぐ
林 薫
ナフタリンとは、懐しや。秋冬物を収納した洋服ダンスを、ちょっとした小物か何かを探す必要があって開けたときの感慨だろう。ふと見ると、いくつものナフタリンがかなり痩せてきている。ナフタリン独特の芳香のなかで、不意に作者は時の流れの早さを感じた。そういえば、なんだか永遠につづきそうな感じだった子供たちの夏休みも、もう後半だ……。作者は静かにタンスを閉め、とてもやさしい心になるのである。似たような句に、安住敦の「夏休みも半ばの雨となりにけり」がある。いずれも、単調な日常のなかでの小さな異変に触発されて、時の経過に思いが至っている。とくにナフタリンの句は、芳香の懐しさともあいまって、作者の気持ちがよく伝わってくる。今宵は、京都五山の送り火だ。こうした派手な行事に接すると、否応なく時の流れを感じざるを得ないけれど、そうではない日常的な瑣末な出来事から発想された句の世界に、私はより強い滋味を感じる。(清水哲男)
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