August 291999
下駄履いてすずしき河岸の往還り
尾村馬人
こういう句を読むと、いいなあ、と溜息が出る。河岸(かし)というのは魚河岸(うおがし)のことで、現在は築地にあるが、昭和の初め迄は江戸時代以来の日本橋にあった。作者の馬人は、明治42年生まれ。日本橋魚河岸問屋「尾久」の三男。久保田万太郎の「春泥」(今の「春燈」にあらず)に投句と、『現代秀句選集』(別冊「俳句」・平成10年刊)にある。魚河岸の人なのに、馬人とはこれいかに。何かいわれがあるのだろうか。万太郎門下には、このタイプの人が多い。近くは、鈴木真砂女さんがそうである。いずれも市世の生活を大事にして、日頃の生計(たつき)にいそしむ。そして、この生き方が句に生気を与え、日常句に気品を与える基となっているのである。季語は「すずし」で、夏。「往還り」は「ゆきかえり」。(井川博年)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|