November 121999
どぶろくの酔ひ焼鳥ももう翔ぶころ
園田夢蒼花
季語は「どぶろく(濁り酒)」。新米を炊いて作ることから、秋の季語とされてきた。多くは密造酒なので、酒飲みには独特の情趣が感じられる季題だ。後ろめたさ半分、好奇心半分で、私も何度か飲んだことはある。当たり外れがあり、すぐに酸っぱくなるのが欠点だ。ところで、作者はまことに上機嫌。焼いている雀か何かが間もなく飛翔するかに見えるというのだから、快調な酔い心地だ。この場に下戸がいたとすると、冷たい目で「だから、酒飲みは嫌いだよ」と言われそうなほどに酩酊している。私も飲み助のはしくれだけれど、大人になってから(!?)は、こんなふうに天衣無縫に酔えたことは一度もない。どうしても、どこかで自制の心が働いてしまうのだ。山口瞳の言った「編集者の酒」の癖が、すっかり身に染みついてしまっているからだろう。作者が、うらやましい。でも、子供のころ(!?)には、この人みたいに酔ったことはある。気がつくと、深夜の道ばたで寝ていた。なんだかヤケに顔が冷たいなと思ったら、雪が降っているのだった。PR誌「味の味」(1999年11月号)所載。(清水哲男)
October 242003
次世代の飢餓など知らん濁り酒
鈴木 明
季語は「濁り酒」で秋。「どぶろく」の名でおなじみの酒だが、新米を使うことから秋季とされる。昔から今にいたるも、この酒には法律に違反して製造された密造酒が多い。現行の酒税法はだいぶ緩和されてきたとはいえ、まだまだ気楽に作るわけにはいかない。酒類の製造免許を受けないで酒類を製造した場合は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる。逆に簡単に言えば、税金さえちゃんと払えば製造してもよろしいというのが法律の趣旨だ。それを承知で秘かに作って飲むのだから、本来の味に加えて危険な味もするわけである。アメリカの禁酒法時代が良い例だが、飲み助はどんなことをしたって、飲みたいときには飲む。法律もへちまもあるもんか……、と作者が飲んでいるのかどうかは知らねども、これが普通に酒屋で売っている清酒だったとしたら句にはならない。やはり、どこかに危険な香りがあるから「知らぬ」の語勢が強まるのである。作者は私より三歳年上だけれど、ほぼ同世代と言ってよいだろう。子供のころに飢餓を体験した世代だ。「次世代」にこんな思いだけはさせたくないと、がむしゃらに働いてきて、ふっと世の中を見回してればこの始末。どんな始末かは野暮になるから書かないが、ともかく「次世代」には総じて失望させられることのほうが多い。他方では、そんな「次世代」を作ってしまったこちらが悪いのではないかという複雑な思いもある。どこでどう歯車が狂っちまったのか。同じ濁り酒でも、若き日の島崎藤村は「濁り酒濁れる飲みて 草枕しばし慰む」と書いた。が、こっちにはもはやそんな悠長な時間なんてないんだ。もう、どうなったって知らねえゾと、ひとり寂しく吼えながら飲む作者の気持ちはよくわかる。『白-HAKU-』(2003)所収。(清水哲男)
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