January 062000
吾が売りし切手をなめて春着の子
大林秋江
正月に着るために新調した晴れ着が「春着」。女性や子供の晴れ着について言うことが多い。郵便局に、ちょこちょこっと入ってきた春着の女の子。日頃、郵便局にはめったに子供はいないから、ましてや春着の子ともなれば目立つだろう。友だちに、年賀状の返事でも出すのだろうか。オクすることなく切手を求めると、これまたオクすることなく糊面をペロリとなめちゃったのだった。あれは何と言うのか、作者が糊面を湿らせるためのスポンジ容器を指さすひまもあらばこそ、である。「あら、まあ」と、読者には正月ならではの楽しい句だけれど、売った当人にペロリの図は、相手が子供でもちょっと引っ掛かるというところ。実は私もペロリ派で、一枚か二枚くらいのときはペロリとやってしまう。それに、なんとなくあのスポンジは頼り無い気もしたりして……。いつだったか、谷川俊太郎さんが「ボクも切手になりたいよ」と言ったことがある。「なぜですか」。「そりゃ、大勢の人にペロペロなめてもらえるからさ」。「……」。ということは、谷川さんもペロリ派なんだと、こちらには納得できたのだが。(清水哲男)
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