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May 0952000

 ぽつつりとおのが名知らぬ蛇苺

                           川島千枝

には失礼な話だが、蛇くらいしか食べないとされていたので「蛇苺」。別名を「毒苺」とも。しかし毒性はないそうで、食べられるがとても不味いということは、本欄で以前書いたことがある。食べたのは、私ではない。もっと勇気のある男だ。最近は見かけたこともないが、子供のころにはそこらへんに自生している、ありふれた植物だった。熟すと見事なほどに真っ赤な色になり、「毒苺」の先入観から「ああ、毒の色とはこういうものか」と思っていた。時として、華麗なるものは、その華麗さゆえに誤解され、うとんじられる。そんな人間間の評判も知らず「おのが名」も知らないで、「ぽつつり」と実をかかげている植物を、作者は哀れとも思い健気とも思い、哀しみを感じている。まことに理不尽な命名ではないか、と。「ぽつつりと」は「蛇苺」の立つ様の写生であると同時に、このときの作者の気持ちのありようでもある。「ぽつつりと」……か。しみじみと心に入ってくるいい言葉ですね。『深祷』(2000)所収。(清水哲男)




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