虻田高・工藤義仁主将の始球式に感動。ナインの気持ちを込めれば誰だって暴投するさ。それでよし。




2000ソスN8ソスソス9ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

August 0982000

 ひぐらしに寡婦むらさきの着物縫ふ

                           藤木清子

分のために縫っているのではないだろう。むらさきの着物は派手だから、「寡婦(かふ)」にはそぐわない。他家から注文のあった仕立物に精を出しているうちに、いつしか「ひぐらし」の鳴く夕暮れとなった。働く「寡婦」と「ひぐらし」の取り合わせが、寂寥感を演出する。そしておそらく、この着物の仕立てを注文したのは、作者自身なのだ。推定の根拠は、掲句の少し後に詠まれた「縁談をことはる畳なめらかに」にある。そしてこれまた推定でしかないが、着物を縫っている人は戦争未亡人だと思う。そこに、掲句のポイントがあるのではなかろうか。藤木清子には戦争を詠んだ句が多数あり、「戦死者の寡婦にあらざるはさびし」「戦争と女はべつでありたくなし」などが目につく。みずから戦争に与する意志が明確で、なんと好戦的な女性かと思われるムキもあるだろうが、当時の一般的な戦争に対する心情を代弁しているだけの内容だと読む。ほとんどスローガンなのだ。以前にも書いたけれど、彼女は戦争期に突然筆を折った後、消息すらわからなくなってしまった。戦後、生きのびた多くの俳人が戦争句を捨てたなかで、捨てようにも捨てられなかった彼女の句は、結果として「残ってしまった」のである。『女流俳句集成』(1999)所載。(清水哲男)


August 0882000

 むかし吾を縛りし男の子凌霄花

                           中村苑子

霄花という漢字は、一般的にはこれだけで「のうぜんかずら」あるいは「のうぜん」と読ませる(『広辞苑』など)ようだが、この場合は「のうぜんか」だろう。いまごろの花だ。赤橙色の漏斗状の花を盛んに咲かせる。大きな特徴は、つるを他の木などにからみつかせて、どこまでも執拗に這い登る性質にある。掲句は、この性質に関わっている。その「むかし」、チャンバラごっこか何かの遊びで、たぶんふざけ半分に自分を縛った「男の子(をのこ)」がいた。縛られる側も相手が面白がっていることはわかっているので、さしたる抵抗もせずに縛られてやったのだ。付近では、今を盛りと凌霄花が咲いていたのだろう。ところが、現実に縛られてみると、なんだか気分が違う。遊びだと思っていた気持ちが、すうっと冷えてきて、経験したことのない生々しい恐怖感に直面することになった。縛った男の子も、遊びを忘れたような生臭い顔をしている。二人ともが、縛り縛られたことによる関係が生みだした、思いもよらぬ現実の重さにあわてている。その場にあったのは、お互いの性の目覚めに通じる何かだったはずだ。あのときに執拗に幼い作者の身体にまとわりついた縄の感触を、目の前の凌霄花が思い出させている。性の目覚めはこのように、突然にあらぬ方角からやってきて、抜き難い記憶としておのれにからみつき、離れることがない。『白鳥の歌』(1996)所収。(清水哲男)


August 0782000

 川半ばまで立秋の山の影

                           桂 信子

秋。ちなみに、今日の東京地方の日の出時刻は4時53分だ。だんだん、日の出が遅くなってきた。掲句では、昼間の太陽の高度が低くなってきたところに、秋を感じている。立秋と聞き、そう言えばいつの間にか山影が伸びてきたなと納得している。視覚的な秋の確認だ。対して、聴覚的な秋の確認(とはいっても気配程度だが)で有名なのは、藤原敏行の「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風のおとにぞおどろかれぬる」だろう。『古今集』の「秋歌」巻頭に据えられたこの一首は、今日にいたるまで、日本人の季節感覚に影響を与えつづけている。俳句作品だけに限っても、それこそおどろくほどに、この歌の影響下にある句が多い。「秋立つや何におどろく陰陽師」(蕪村)等々。したがって、掲句の桂信子はあえて聴覚的な気配を外し、目にも「さやかに」見える立秋を詠んでみせたということか。いつまでも「おどろく」でもあるまいにという作者の気概を、私は感じる。ところで、秋で必ず思い出すのはランボーの『地獄の季節』の最後に収められた「ADIEU」という詩。「もう秋か! それにしても俺達は、なにゆえに永遠の太陽を惜しむのか」(正確なな翻訳ではありません。私なりの翻案です)ではじまる作品だ。ここには、いわば反俳句的な詩人の考えが展開されている。日の出が早いの遅いのなどという叙情的季節感を超越し、ひたすらに「聖なる光明をを希求する」(宇佐美斉)若者の気合いが込められている。『新日本大歳時記・秋』(1999・講談社)所載。(清水哲男)




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