清\句

September 0992000

 別荘を築きて置くぞ大銀河

                           中川清彌

内稔典さんから、新著『俳句的人間 短歌的人間』(岩波書店)をいただいた。掲句は、集中の「楽しい辞世の句」に引用されている句だ。といっても、これは坪内さんが『一億人のための辞世の句』(蝸牛社)のために、全国から募集したなかの一句だから、作者が亡くなっているわけではない。いま死ぬとしたら、こんな句を作りますよということである。句意は「私が先に行って、大銀河の一等地に別送を築いておくから、何も心配しないで後からお出で」と、そんなところ。銀河に別荘とは豪勢だが、作者はよほど現実世界での別荘に憧れていると読める。この世ではかなわない夢を、あの世で果たそうというわけだ。イジマシくも、イジラしい。そして、優しい人柄……。坪内さんも書いているように、辞世句の試みなど、死をもてあそぶものだと反発する人もいるだろう。しかし、その気になって試みてみると、これがなかなかに面白い。たった十七文字に、いわば自分の生涯を凝縮させるわけだから、あれこれと悩み推敲しているうちに、時間がどんどん経ってしまう。自己発見の面白さ。でも、死は待ってくれないので、どこかで思い切ることも必要だ。とにかく、自分の地金があらわになることだけは必定で、秋の夜長の過ごし方の一法としてお薦めしておきたい。(清水哲男)




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