日常が戻ってくる気配もいいものですね。さあて、今年はどんな年になりますか。ご自愛ご専一に。




2001ソスN1ソスソス4ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

January 0412001

 年酒酌むふるさと遠き二人かな

                           高野素十

事始め。出版社にいたころは、社長の短い挨拶を聞いてから、あとは各セクションに分かれて「年酒(ねんしゅ)」(祝い酒)をいただくだけ。実質的な仕事は、明日五日からだった。帰郷した社員のなかには出社しない者もおり、妻子持ちは形だけ飲んでさっさと引き上げていったものだ。いつまでもだらだらと「年酒」の場から離れないのは、独身の男どもと相場が決まっていた。もとより、私もその一人。早めに退社しても、どこにも行くあてがないのだから仕方がない。そんな場には、揚句のような情緒は出てこない。この「二人」は夫婦ととれなくもないが、故郷に帰れなかった男「二人」と解したほうが趣きがあるだろう。遠いので、なかなか毎年は帰れない。故郷の正月の話などを肴に、静かに酌み交わしている。しみじみとした淑気の漂う大人の「年酒」であり、大人の句である。揚句は、平井照敏の『新歳時記・新年』(1990・河出文庫)で知った。で、本意解説に曰く。「新年の祝いの酒なので、祝いの気持だけにすべきもので、酔いつぶれたりすることはその気持に反すること甚だしい」。『歳時記』に叱られたのは、はじめてだ(笑)。阿波野青畝に「汝の年酒一升一升又一升」という豪快な句があり、どういうわけか、この句もこの『歳時記』に載っている。(清水哲男)


January 0312001

 羽子板の重きが嬉し突かで立つ

                           長谷川かな女

子板は女の子の世界のもの。後藤夜半に「羽子板の冩楽うつしやわれも欲し」があって、自分が女の子でないことを残念がっている。この気持ちは、よくわかる。買って買えないことはないのだけれど、買ったからといってどうにもならない。結局は、持て余すだけだろうからだ。もっとも「冩楽うつし」というのであれば、羽子板市で売っているような飾り物としての豪華な羽子板かもしれない。だとすると、なおさらだ。ところで、揚句の羽子板はそうした飾り物ではない。ちゃんとそれで遊べるのだが、安物ではない上等な羽子板なのだ。だから、手に重い。こんなに立派な羽子板を手にしたのははじめてなので、嬉しくて仕方がないという風情。表では、友だちの羽根つきが賑やかにはじまっている。いっしょに遊ぼうと飛び出していって、しかし、すぐには加わらず、しばらくは羽子板の重さを楽しんで立っている。そしておそらく、羽子板は友だちからは見えないようにして持っているのだと思う。ちょっと後ろ手気味にして……。みんなが見たら、きっと「いいなあ」と言うだろう。その一瞬が恥ずかしくもありまぶしくもあって、すっと仲間の輪に入れない気持ちも込められている。ここに夜半のような人が通りかかれば、たちまちに「突かで立つ」女の子の気持ちを見抜いて、そのいじらしさ可愛らしさに微笑を浮かべるにちがいない。この句は、虚子に「女でなければ感じ得ない情緒の句」と推奨された。かな女初期の代表作である。『龍膽』(1910-29)所収。(清水哲男)


January 0212001

 御降りや今年いかにと義父の問ふ

                           守屋明俊

父が存命のころは、例年家族で大阪まで挨拶に出かけた。挨拶の座で、必ず「今年いかに」と問われた。それも、実にさりげない調子で……。しかし、さりげないだけに、聞かれたほうはドキリとする。なにせ世に言う正業に就いていない身だからして、問われてもきちんとは答えられないからだ。「まあ、なんとか」などと、曖昧な返事をするしかなかった。義父の質問は、もとより娘の身を案じてのことである。もっと景気のいい返事を聞いて安堵したかったのだろうが、一度もそのようには答えられなかった。私も「義父」と呼ばれる立場になってより、娘婿に会うたびに問いたくなる。ただし相手はドイツ人だから、さりげなくも何も、どう尋ねてよいのかがわからない。そんなドイツ語は、学校で教えてくれなかったからなア(笑)。この正月はあちこちの家で、正業に就いている男たちにも、さりげなくも鋭い質問が投げかけられているのではあるまいか。季語は「御降り(おさがり)」。元来は元日に降る雨を言ったようだが、いまでは三が日の雨降りを言う。雪にも使う場合がある。「御降りのかそけさよ父と酒飲めば」(相生垣瓜人)。こちらは、実父だ。父親と呑んではいるけれど、会話ははずんでいない。初春の雨の音が、かそけく聞こえてくるばかり。父と息子との関係は、たいていがこのようなものだろう。そこに、味わいもあるのだが。『西日家族』(1999)所収。(清水哲男)




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