マイクでひっきりなしに喋りまくるバスの運転手さん。サービスのつもりだろうが、閉口させられる。




2001ソスN4ソスソス6ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

April 0642001

 都をどり観給ふ母を見てゐたり

                           大串 章

語は「都踊」で、春。四月の間、京都祇園花見小路の歌舞練場で祇園の舞妓・芸妓が公演する絢爛豪華な踊りである。「都踊でよういやな」の掛け声でも有名だ。明治五年にはじまったというから、歴史は長い。田舎の母親を京都見物に招待した作者は、プランのなかに「都をどり」を組み込んだ。しかし、舞台を母が喜んでくれるかどうか心もとない。おそらく、作者も初見なのだと思われる。母のことが気になって、舞台に集中するどころではない。ちらちらと様子をうかがっているうちに「都をどりまぶしと母の微笑みぬ」と、喜んでくれた。ほっとした。招待とはまことに難しいもので、行きつけの飲屋に友人を誘っても、ちょっとこうした気分になる。ましてや、相手は遠く故郷から上洛してきた母親だ。気に入ってもらわなければ、悔いが残る。そんな気の遣いようが、身にしみて伝わってくる。母親からすれば、立派に成長した息子と並んで、一緒に舞台を観ているだけで十分に幸福なのだろう。だが、息子の側としては、そうはいかない。もっともっと喜ばせたい。喜ぶ顔が見たいのだ。と、このように母を思い遣る作者の心には、読者もほろりとさせられてしまう。他者からみれば、なんでもない光景だ。それゆえに、なのである。「給ふ」という表現も、よく生きている。久しぶりの邂逅であるし、今度会うのはいつのことにになるのかわからない。この気持ちが、ごく自然に「給ふ」と言わしめている。『朝の舟』(1978)所収。(清水哲男)


April 0542001

 はなちるや伽藍の枢おとし行

                           野沢凡兆

兆は、加賀金沢の人。蕉門。『猿蓑』の撰に加わった。彼の移り住んだ京には、いまも花の名所として知られる寺が多い。夕刻の光景だ。花見の客もあらかた去っていき、静かな境内では花が散り染めている。「枢(くるる)」は普通の戸の桟(さん)のことも言うが、ここでは寺だからもう少し頑丈な仕掛けのあるもの。「扉の端の上下につけた突起(とまら)をかまちの穴(とぼそ)にさし込んで開閉させるための装置」(『広辞苑』第五版)だ。旧家などの扉にも使われ、さし混むときにカタンと音がする。静寂のなかに扉を閉ざす音が響き、なお花は音もなく散りつづけて……。「はなちるや」の柔らかい表記と固い音響との対比も見事なら、僧侶の黒衣にかかる白い花びらとの対照も目に見えるようである。かくして、寺の花は俗世から隔絶され、間もなく「伽藍(がらん)」とともに柔らかな春の闇に没していくだろう。無言の僧侶はすぐに去っていき、作者もまた心地よい微風のなかを家路につくのである。寂しいような甘酸っぱいような余韻を残す句だ。「春宵一刻値千金」とも言うけれど、その兆しをはらんだ春の夕暮れのほうが、私には捨てがたい。「さくらちる」京都の黄昏時を、ほろりほろりと歩いてみたくなった。いまごろが、ちょうどその時期だろうか。(清水哲男)


April 0442001

 衰ひや歯に喰あてし海苔の砂

                           松尾芭蕉

語は「海苔(のり)」で、春。人間の衰えの兆しは、まず歯に来ると昔から言われてきた。その次には「目」に来て、次の次はムニャムニャ(笑)だ。元禄四年(1691)の作句だから、芭蕉は四十八歳だったことになる。当時の海苔には砂混じりのものも多かったはずだから、老若に関係なく「喰あてる」ことは普通のことだったろう。が、年を取るとジャリッと噛み当てたときの感触が違うのだ。若いうちならジャリッと来たらペッペッと平気な顔をしていられるが、そうはいかない。ジャリッと来てミシッと歯茎に食い込む感じになる。「来たっ」と思い、認めたくはないのだけれど、否応なくこれが衰えというものかと思う。会食のときなどにジャリッと来ると、顔にこそ出さないが、一瞬暗澹たる気持ちになる。まわりの人たちの若さが、とても羨ましくなる。芭蕉も、きっとそんな気持ちだったに違いない。べつに芭蕉に言われなくても、年老いてくると、誰もが歯の一瞬の感覚で衰えを感じているはずだ。しかし、そんな当たり前のことを簡潔に表現するのは難しい。初案は「噛当る身のおとろひや苔の砂」だった。こちらの句は本音が出過ぎていて、個人的な感慨に閉じ籠っていて、句がべとついてしまっている。からっと仕上がって乾いている掲句のほうが、多くの読者に思い当たらせるパワーを感じる。なにせ相手が乾き物の「海苔」だけに……。とは、無論つまらん冗談です。(清水哲男)




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