G黷ェ句

May 0552001

 粽結ふ母も柱もむかしかな

                           宮下白泉

まは「こどもの日」、昔は「端午(たんご)の節句」。この日の菓子は、「粽(ちまき)」か「柏餅」だ。関西では「粽」、関東では「柏餅」が一般的だと聞いたこともあるが、どうだろうか。掲句の背景には、有名な童謡「背くらべ」(海野厚作詞・中山晋平曲)が意識されている。「柱のきずは おととしの/五月五日の 背くらべ/ちまきたべたべ にいさんが/はかってくれた 背のたけ……」。この歌のせいで、全国の家庭の柱には、どれほどの傷がつけられたことだろう。ご多分に漏れず、我が家の柱も同一の運命にみまわれた。作者の前には粽があり、そんな「むかし」を懐かしんでいる。「粽結ふ母」も傷つけた「柱」も、いまや無し。思えば、あの頃の我が家がいちばんよかったなあ。「むかし」という柔らかな表記が、ほのぼのとした郷愁を誘う。石川桂郎に「一つづつ分けて粽のわれになし」があり、これもさりげない佳句だ。頂き物の粽を家族で分けてみたら、一つ足りなかった。「お父さんはいいよ、子供の頃にいっぱい食べたからね……」。「一つづつ」と強調されているから、粽などめったに手に入らなかった食料難の時代の句だろう。掲句の作者も、もしかしたら同じ状況にあったのかもしれない。俺は良い思い出だけで十分だよ、と。急に粽が食べたくなった。『新日本大歳時記・夏』(2000・講談社)所載。(清水哲男)


May 0452003

 ちまき買ひ交通難の刻過ごす

                           杉山岳陽

かったようで、わからない句。家族のために「ちまき(粽)」を買い求め、少しでも早く帰りたいのだが、「交通難」のせいで苛々させられている。ここまではわかるのだけれど、しからば、このときの作者は物理的にはどんな状態にあるのだろうか。つまり、交通難とは何を指して言っているのかがわからないのだ。現代の感覚からすると、交通渋滞ということになりそうだが、この句は出典の発行年からして、1960年代以前に詠まれている。ほんの一部の地域を除いては、まだ渋滞は一般的ではなかったころの句だ。むろん、そんなにマイカーは普及していない。そこでネットを走り回って調べてみたところ、専門家の間では、交通渋滞と交通難とでは定義の違うことがわかった。交通渋滞はいまどきの私たちが体験しているそれであるが、交通難は交通機関が乏しい、インフラの整備が遅れている状態を指すのである。該当する一般的な用例としては、こんなのがあった。「最近の大阪は、東京と同じく交通難だった。午後三時を過ぎると、御堂筋でも、なかなか空車がつかまらない」(梶山季之『黒の試走車』1962)。明らかに、交通渋滞ではないことがわかる。そんなこんなを考え合わせると、掲句の作者の場合も、この状態にあるのだと思われる。タクシー待ちとは限らないにしても、バスや市電を待っているが、なかなか来ないので苛々している図だ。ああ、言葉は難しい。言語難。『新改訂版俳諧歳時記・夏』(1968・新潮文庫)所載。(清水哲男)


May 0752008

 ふるさとの笹の香を咬むちまきかな

                           小杉天外

まき(粽)は端午の節句の頃に作る。関東では柏餅。笹の葉で巻いて蒸したモチ米または団子である。笹の葉で包むと日持ちがいいばかりでなく、笹の香がおいしさをいっそう引き立てる。天外は秋田県の生まれ。ふるさとから送られてきたちまきは、格別なごちそうというわけではないけれど、笹の香に遠いふるさとの香り、ふるさとの様子をしばししのんでいるのだろう。「笹の香」ゆえに「食べる」というよりも「咬(か)む」とアクティブに表現したあたりがポイント。その香を咬めば、ちまきの素朴なおいしさばかりでなく、すっかりご無沙汰しているふるさとの懐かしい人々や、土地のあれこれまでが思い出されるのだろう。かつて笹だんごは家々で作っていたから、私は子どもの頃、裏山へ笹を採りに行かされた。白いモチ米で作ったちまきの笹をむいて、黄粉(きなこ)を付けて食べた。それよりも子どもたちには、なかにアンコが入り草餅で包んだ笹だんごのほうがおいしかった。砂糖の入手が困難だった戦時中は、アンコのかわりに味噌をなかに入れていたっけ。あれには妙なおいしさがあった。食べることもさることながら、祖母や母に教わりながら、慣れない手付きでゆでた笹でくるみ、スゲで結わえる作業に加わるのが、ヘタクソなくせに楽しかった。「越後の笹だんご」は名物として、私のふるさとの駅やみやげもの店で盛んに蒸篭でふかしながら売られているけれど、見向きもしなくなってしまった。夏目漱石の「粽食ふ夜汽車や膳所(ぜぜ)の小商人(こあきうど)」という句も忘れがたい。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます