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May 2952001

 鴨居に頭うつて坐れば水貝よ

                           波多野爽波

波は長身だった。「寝そべりてわが長身や楝咲く」がある。「楝(おうち)」はセンダンの古名で、夏に咲く。しかし、いかな長身といえども、普通の家の鴨居(かもい)に頭をぶつけることは稀だろう。長身の人は日頃から腰をかがめるなどして、それなりに用心しているからだ。私は「船遊び」の図だと見る。納涼船の部屋の鴨居ならば、普通の背丈の人でも、少し腰をかがめないと入れない。もちろん作者もかがめたのだが、見当が狂った。いきなりガツーンと来て、くらくらっとなった。打ったデコチンに手を当てて、とにかくよろよろと坐り込む。しばらく目を閉じて痛みをこらえ、おさまりかけたので目を開けてみると、好物の「水貝(みずがい)」がクローズアップされて目に入ってきたというのだ。おお「水貝よ」。泣き笑いの感じがよく出ていて、とぼけた可笑しさがある。こんなことまで句にしてしまうところが、爽波一流の諧謔精神の発露と言えよう。ちなみに、「水貝」は新鮮な生アワビの肉を賽の目に切り、氷片を浮かせて肉をしめ、塩を少々振った料理だ。ワサビ醤油やショウガ酢などで食べる。夏の季語。『骰子』(1986)所収。(清水哲男)




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