June 142001
いかにも髪切虫を見る眼つき
加倉井秋を
文字通りに、髪の毛くらいは平気で噛み切ってしまう。樹木を害するが、人畜には無害だ。「天牛(かみきり)」とも書き、種類は多いようだが、最もポピュラーなのは黒地に白い斑点のある「胡麻斑天牛(ごまだらかみきり)」だろう。体長4センチ前後。最近、とんと見かけなくなった虫だ。昔はこいつが鞭のように長い触角を振り上げてガサゴソと出現すると、昆虫好きの人は別にして、たいていの人はキッと身構えた。その「眼つき」はといえば、句のように「いかにも」としか言いようがないのである。直接「髪切虫」を描くのではなく、それを見る人の眼つきを通して虫のありようを言い当てているところが面白い。「いかにも」と字足らずの表現も、素早い身構えに対応している。この虫を知らなくても、ゴキブリやヘビに置き換えてみれば、おおよその句意の見当はつくはずだ。ただ髪切虫の場合はゴキブリなどと違って、あまり陰湿な感じは受けない。獰猛な感じもするが、どこか憎めないところがある。だから、いきなり殺そうとする人は稀ではなかろうか。せいぜいが捕まえて、ぽいと表に放り出すくらいだ。捕まえるとキイキイと鳴くので、哀れでもある。同じ作者に「妻病みて髪切虫が鳴くと言ふ」がある。こちらは、愛しくも哀れ。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)
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