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2001ソスN6ソスソス30ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

June 3062001

 小数点以下省略のかきつばた

                           永末恵子

っきりと咲いた「かきつばた(燕子花・杜若)」の姿を、これまたすっきりと「小数点以下省略」と捉えた句。花の美しさよりも、剣状の葉とともにある形状のくきやかさに注目している。よく混同される「あやめ」は、花に網状の文様があるので、作者のウイットを援用すれば、小数点以下三桁か四桁くらいの感じがする。小数点といえば、学校で教える円周率(Π)の値が「小数点以下省略」されることになったという。無茶な話だ。亡国の数学教育だ。「省略」したのは、計算がしやすいからだろう。たしかに従来の「3.14」だって、アバウトと言えばアバウトではある。で、どうせアバウトなのだから、計算が簡便な「3」にしちまえという理屈は、しかし教育的に筋が通らない。百歩ゆずっても、単なる「3」ではなく「3.0」と小数点の存在を明確にしておかないと、円周率の本義を理解できなくなるではないか。この事態を皮肉った小沢信男の文章がある(「るしおる」43号・2001)。「円に内接する正六角形の6辺の和は、半径×6=直径×3=円周。すなわち真ん丸であることは正六角形にほかならなくなってしまった。(中略)かねて自主規制のつよい国民性なもので、丸顔のやつなどはだんだんとがった顔つきになる。ついにある日、日の丸の旗が、日の六画旗に改められた。……」。小沢さんによれば、横綱の武蔵丸も「武蔵六角」になり、駅前のマルイも「ロッカクイ」となる羽目に。『留守』(1994)所収。(清水哲男)

[付言]私の不勉強で、上の記述に不適当な部分がありました。読者よりご教示いただいた『小学校学習指導要領、第2章「各教科」、第3節「算数」の「第5学年」』には、「円周率としては3.14を用いるが,目的に応じて3を用いて処理できるよう配慮する」と書かれています。ただ、目的がどうであれ、私は単なる「3」には反対です。


June 2962001

 裸子も古めかしくてこの辺り

                           京極杞陽

語は「裸子(はだかご)」で、夏。1964年(昭和三十九年)、東京オリンピックの年の作品だ。一般の家庭にはまだ冷房が普及していなかったので、ちっちゃな子はみんな、それ以前と同じように、裸(同然)で夏の昼間を過ごしたものだ。ああ、懐かしき「金太郎の腹掛け」よ。掲句が面白いのは、子供の裸の姿にも「古めかしく」感じられる何かがあると、ストレートに披歴しているところだ。よく言う「田舎くささ」に通じる感覚だろう。「この辺り」がどのあたりなのかは知らないけれど、その土地の「古めかしさ」を「裸子」にまで見て取り、しかも句に仕立て上げた感覚は鋭い。リアリストの目が光っている。誤解のないように述べておけば、むろん作者はここで微笑しているのである。大人の(男の)社会では、しばしば比喩的に「裸のつきあい」などと言って、お互いの衣装や殻を脱ぎ捨てたコミュニケーションこそ最上と位置づけたりする。だが、無心に近い「裸子」にして、既にこのような古さがあるわけだ。裸になってもなお脱げない根源的な意匠の存在を指し示している意味でも、この句は考えるに値するだろう。いわば無心のままにまとってしまった意匠は、ついに脱ぐことができない。私はこの条件を、人間の脱しきれぬそれとしてカウントせざるを得ないできた。『花の日に』(1971)所収。(清水哲男)


June 2862001

 辻があり輓馬と螢入れかはる

                           柿本多映

い荷を積んだ車を、あえぎながら馬がひいていく。その「輓馬(ばんば)」が向こうの四つ辻にようやく姿を消すと、かわって軽やかにもふうわりと一匹の「螢」が出現した。静かだが、なかなかにドラマチックな交代劇である。「輓馬」だから、サラブレッドのようにスタイルがよいわけでもないし、しかも汗みどろだ。見ているだけで暑苦しくなる馬と、見ているだけで涼感を覚える蛍との「入れかは」りである。どこかから、涼しい風が吹いてくるような感じがする。そして、句の眼目はここに止まらないだろう。「輓馬」が見えているのだから、あたりはまだそんなに暗くはない。ところが「入れかはる」蛍の光が見えるとなれば、あたりはそんなに明るくはない。というよりも、もはや真っ暗闇に近い。すなわち、この交代劇は「辻」をいわば時間軸に見立てた昼と夜のそれなのでもあった。このことを踏まえて深読みすれば、私たちの日々の生活の「疲弊」と「安息」の「入れかは」るときを、抒情的に暗示してみせた句だとも読める。『花石』(1995)所収。(清水哲男)




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