穂高に遠征しての余白句会。蕎麦が食べられないのは残念だが、美味い空気を期待して…。仙人だな。




2001ソスN8ソスソス25ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

August 2582001

 露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す

                           西東三鬼

者の状況説明。「ワシコフ氏は私の隣人。氏の庭園は私の二階の窓から丸見えである。商売は不明。年齢は五十六、七歳。赤ら顔の肥満した白系露人で、日本の細君が肺病で死んでからは独り暮らしをしている」。「叫びて打ち落す」のだから、食べるためではないだろう。いまで言うストレス発散の一法か。そんなワシコフ氏の奇矯な振る舞いを、二階の窓から無表情で見下ろしている三鬼氏。両者の表情を思い合わせると、なんとなく可笑しい。と同時に、人間の根元的な寂しさがじわりと滲み出てくるような……。この後、砕け散った石榴(ざくろ)を、ワシコフ氏はどうしたろうか。そこまでは、三鬼氏の知ったことではない。彼の句に「俳句的なイロニックな把握はない」と評したのは山本健吉だったが、この句もストレートに状況を述べている。ストレートだから可笑しくも哀しいのであって、ひねったカーブで仕留めようとすると、これほどにワシコフ氏のありようは明確にならないだろう。要するに、三鬼の句は対象を可能な限り対象のままにあらしめること、そこに力が込められている。では、一般に言う写生派と同じ技法かということになるが、それとも違う。写生派の命は、多く切れ字などのひねり(カーブ)に関わっている。客観性を保つという意味では、実は三鬼句のほうがよほどクリーンなのである。『西東三鬼句集』(角川文庫・絶版)などに所収。(清水哲男)


August 2482001

 歯痛に柚子当てて長征の夜と言いたし

                           原子公平

の「歯痛」は心細い。歯科医に診てもらうためには明日まで待たなければならないし、そのことを思うだけでも、痛みが増してくるようである。とりあえず、手元にあった冷たい「柚子(ゆず)」を頬に当ててみるが、ちょっと眠れそうにないほどの痛みになってきた。とにかく、このまま今夜は我慢するしかないだろう。そんなときに、人は今の自分の辛さよりももっと辛かったであろう人のことを脳裏に描き、「それに比べれば、たいしたことではない」と、自分を説得したがるもののようだ。で、作者の頭に浮かんだのが「長征(ちょうせい)」だった。「長征」とは1934年秋に、毛沢東率いる中国共産党が、国民党軍の包囲攻撃下で江西省瑞金の根拠地を放棄し、福建・広東・広西・貴州・雲南・四川などの各省を経て、翌年陝西省北部に到着するまで約1万2千5百キロにわたる大行軍をしたことを指す。なるほど、たしかにこの間の毛沢東らの艱難辛苦に比べれば、一夜の「歯痛」ごときは何でもないと思えてくる。しかし、そう思えてくるのは一瞬で、結局頼りになるのは毛沢東の軍隊ではなく、やはり手元のちっぽけな「柚子」一個でしかないのが、悲しくも可笑しい。「言いたし」に、泣き笑いの心情がよく出ている。「長征」を語れる人も少なくなってきた。『海は恋人』(1987)所収。(清水哲男)


August 2382001

 サーバーはきっと野茨風が立つ

                           坪内稔典

ソコンを扱う当サイトの読者ならば、おそらくは全員が「きっと」ではなく「キッ」となる句だろう。私も思わず「キッ」となった。最近ではワープロを詠んだ句こそ散見するが、国際的なHAIKUの世界はいざ知らず、俳句で「サーバー(server)」が詠まれたのは初めてではあるまいか。だから「キッ」なのである。で、「なになに、サーバーがどうしたって」と辿ってみると、「きっと野茨(のいばら)」なんだと書いてある。そこで自然の成り行きとして、両者がどのあたりで似ているのかを考えることになる。野茨は初夏に白い花を咲かせ、秋には赤い実をつける。いずれも可憐な印象だ。だが、蔓状の枝には鋭い無数の棘(とげ)が……。つまり、花や実のサービスを受けるためには、この入り組んだ棘を素早く辿り、しかも刺されないように用心して通らなければならない。「きっと」そういうイメージなんだろうなと、私は読んだ。パソコンを操るとは、日々この作業の連続とも言える。のほほんと構えていると、思わぬところで棘にやられてしまう。で、そんなサーバーとのやりとりに熱中し、ふと我に返ると表には「風が立」ち、季節は確実に一つ過ぎているのだった。厳密に言えば無季句だけれど、立つ「風」の気配は秋だろう。「秋風」の項に登録しておく。「俳句四季」(2001年7月号)所載。(清水哲男)

[うへえっ]この「サーバー」は、テニスなどのそれではないかとの反響多し。むろん考えました。だとすれば、可愛い顔して棘のあるサーブを打ってくる少女のイメージか。でも「風が立つ」がつき過ぎだと思い、以上に落ち着いた次第です。パソコン狂の妄想かもしれませんが、ま、いいや。この線で突っ張っておきます。MacOs9.2.1へのアップデータが登場しましたね。




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