♪地球の上に朝が来りゃ、その裏側は夜だろう。川田晴久とダイナブラザーズ。元気な楽団だった。




2001ソスN10ソスソス25ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 25102001

 句会果て井川博年そぞろ寒

                           八木忠栄

語は「そぞろ寒(さむ)」で秋。「冷やか」よりもやや強く感じる寒さ。素材的に身内の句の紹介になるが、「句会」とは、詩の書き手がほとんどの小沢信男さんをカシラとする「余白句会」で、年に三度か四度集まっては、故・辻征夫の言葉を借りれば「真剣に遊んで」いる。井川博年は創立メンバーの一人であり、作者の八木忠栄は私同様に、途中から補強(!?)された一人だ。この日の井川君は、調子が悪かった。高校時代に松江図書館で、誰も借り手のない虚子の全集をみんな読んじゃったという人だけに、逆に俳句を知りすぎているが故の弱さの出ることがある。そういう日だった。井川君の風貌を知っている読者であれば、この「そぞろ寒」には一も二もなくうなずけるだろう。山陰の男に特有のそぞろ寒い感じを、確かに井川君は持っている。彼を直接知らない多くの読者には、ご自分の友人知己の誰かれを思い起こしてほしい。それぞれの人には、それぞれに似合う季節があると思いませんか。この句は身内を詠んではいても、暗にそういうことを指さしている。固有名詞を出しながらも、普遍性を保っている。べつに、井川博年を具体的に知らなくたってよいのです。ちなみに作者は長岡の出身だからか、冬の似合う人であり、句集でも佳句は晩秋から冬に集中している。ならば、読者諸兄姉よ、あなた自身に似合う季節は「いつ」だとお思いでしょうか。自分のことはわからない。むろん、私もわからない。というようなことが、掲句からいちばんわかったのは、実は詠まれている井川博年その人であることが、よくわかる一句だと思いました。ね、井川君、そうじゃろうが……。『雪やまず』(2001・書肆山田)所収。(清水哲男)


October 24102001

 満九十歳落葉茶の花生まれ月

                           伊藤信吉

日前に、群馬県は前橋市で創刊された俳誌「鬣(たてがみ)」(発行人・林桂、編集人・水野真由美)をいただいた。その巻頭に、掲句を含む詩人の十八句が「花々」というタイトルで掲載されていた。伊藤信吉さんは、前橋生まれの前橋育ち。萩原朔太郎や萩原恭次郎、高橋元吉などと交流のあった人だ。1906年(明治三十九年)の十一月生まれだから、間もなく満九十五歳になられる。長寿の秘訣は、司修さんに言わせると「ひどい偏食」にあるのだという。「わたしは赤い色をした食べものが嫌いなんさね。トマトとか人参とか」と。それはともかく、このように「満九十歳(まん・きゅうじゅう)」と出られると、何も言うことはなくなってしまう。ただ一点、関心を抱かせられるのは、自分の「生まれ月」に関わる数多い事象や風物のなかから、何を「満九十歳」の人が拾い上げているかということだ。それが「落葉」と「茶の花」であることに、私のなかの高齢者観はひとまず安心し、しかしもしも自分が伊藤さんの年齢まで生き延びることがあったら、このあたりに落ち着くのかなと思うと、なんとなく落ち着きかねる気分でもある。あまりにも、絵に描いたような……。でも、これは伊藤さんのまぎれもない現世現実の率直な気持ちなのだ。粛として受け止めておかねばなるまい。もう一句。「石垣をおおいて秋花獄の跡」。朔太郎の父親が、死刑囚に立ち会う医師であったことをはじめて証したのは、伊藤さんである。間もなく『伊藤信吉著作集・全七巻』が沖積舎より発刊されると、同封の広告にあった。(清水哲男)


October 23102001

 月光を纏ひしものに誰何さる

                           和湖長六

の光の美しい夜。ほろ酔い加減で機嫌よく家路をたどっていると、前方をさえぎるように人影が現われ、いきなり「誰何(すいか)」された。「どこ行くの」「どこから来たの」「いつも、ここ通るの」。警官である。私にも経験があるが、あれは不快というよりも、驚きの念のほうが先に来る。不快は、後からやってくる。そして、やり取りをしているうちに落ち着いてくると、だんだんと不思議な気持ちになってくるのだ。身に覚えはないことながら(「だからこそ」か)、何かを疑われているという気分は、妙なものである。なんだか小説か映画か、架空の世界に入り込んだような感じになり、思わずあたりを見回してしまう。掲句は、そんな心持ちを、警官に「月光」を纏(まと)わせることで表現しているのではなかろうか。闇夜ならば闇に溶けてしまいそうな黒っぽい警官の制服が、月夜だから独特な光彩を放って浮かび上がっているのだ。実際には浮かび上がるわけもないけれど、そんなふうに感じられたということ。およそ温度を感じさせない冷たい月明による制服の光彩が、否応なく作者を架空の世界に連れていったということだろう。他にもいろいろに読めるとは思うが、「誰何」と「月光」との取り合わせは面白い。後を引くイメージだ。『林棲記』(2001)所収。(清水哲男)




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