年賀状発売日。紅茶の日。灯台記念日。犬の日(ワンワンワン)。すしの日。そして自衛隊記念日。




2001ソスN11ソスソス1ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

November 01112001

 鰡とんで夜釣の赤き電気浮子

                           本田令佳

語は「鰡(ぼら)」で秋。代表的な出世魚の一つで、成長するにしたがって名前が変わる。幼魚のころは「はく」と言い、途中で幾度か名前が変わり、成魚となり泥臭さが抜けてくる秋になると「ぼら」になる。数年生き延びた大型魚は「とど」。最後が「とど」ゆえ「とどのつまり」なる表現が生まれた。……とは、実は物の本で得た知識であって、私は生きているこの魚を見たことはない。俳句は日常身辺事に取材することが多いので、山の子である私は、海の句が苦手だ。たいていの句が、よくわからない。でも、この句には一読して魅かれた。実景は知らないけれど、寒くて真っ暗な海に赤く灯る電気仕掛けの「浮子(うき)」がぽつりぽつりと浮いている様子を想像すると、鮮やかな絵が浮かんでくる。そして、姿の見えない「鰡」が、ときおりぱしゃっと跳ねる音も聞こえてくる。視覚的効果のなかに、音がよく生きていると思えた。それにしても、いまは「電気浮子」なんて洒落たものがあるのか。子供のころは川でよく釣ったが、あのころいちばん欲しかったのが、ちゃんとした「浮子」だった。買う金がなくて、そこらへんの萱(かや)を適当な長さに切って使っていた。釣りながら最も見つめるのは「浮子」だから、立派なものが欲しくなるのは人情だろう。生まれて初めてパリに行ったとき、デパートの釣り具売り場に、実にさまざまな形と色の「浮子」が並んでいたのが、忘れられない。まさに釘付け状態で、見惚れた。使うことはないが記念に求めようかと思案したけれど、このときも、気に入ったものはあまりに高すぎて買えなかった。「俳句界」(2001年11月号)所載。(清水哲男)


October 31102001

 君見よや拾遺の茸の露五本

                           与謝蕪村

村にしては、珍しくはしゃいでいる。「茸」は「たけ」。門人に招かれて、宇治の山に松茸狩りに行ったときの句である。ときに蕪村、六十七歳。このときの様子は、こんなふうだった。「わかきどちはえものを貪り先を争ひ、余ははるかに後れて、こころ静にくまぐまさがしもとめけるに、菅の小笠ばかりなる松たけ五本を得たり。あなめざまし、いかに宇治大納言隆國の卿は、ひらたけのあやしきさまはかいとめ給ひて、など松茸のめでたきことはもらし給ひけるにや」。宇治大納言隆國は『宇治拾遺物語』の作者と伝えられている人物。読んだことがないので私は知らないが、物語には「ひらたけ(平茸)」の不思議な話が書いてあるそうだ。「菅の小笠」ほどの松茸を五本も獲た嬉しさから、大昔の人に「なんで、松茸の素晴らしさを書き漏らしたのか」と文句をつけたはしゃぎぶりがほほ笑ましい。でも、そこは蕪村のことだ、はしゃぎっぱなしには終わらない。句作に当たって、「拾遺」に「採り残された」の意味と物語に「書き漏らされた」との意味をかけ、「露五本」と、採り立ての新鮮さを表す「露」の衣裳をまとわせている。蕪村は、この年天明三年(1783年)の師走に没することになるのだが、そのことを思うと、名句ではないがいつまでも心に残りそうである。(清水哲男)


October 30102001

 草の露かがやくものは若さなり

                           津田清子

に結ぶことが多いので、単に「露」と言えば秋季になる。風のない晴れた夜に発生する。「露」はすぐに消えてしまうので、昔からはかない事象や物事の象徴とされ、俳句でもそのように詠み継がれてきた。「露の世は露の世ながらさりながら」(小林一茶)など。ところが作者は、そのはかない「露」に「若さ」を認めて感に入っている。「かがやくものは若さなり」と、「草の露」を世の物象全体にまで敷衍して言い切っている。言われてみると、その通りだ。この断定こそが、俳句の気持ちよさである。作者にこの断定をもたらしたのは、おそらく作者の年輪だろう。なにも俳句の常識をひっくり返してやろうと、企んでいるわけではない。若いうちは、かえって「はかなさ」に過剰に捉えられる。拘泥する。おのれの、それこそ過剰な若さが、「はかない」滅びへの意識を敏感にさせるからだろう。私自身に照らして、覚えがある。若いときに書いた詩やら文章やらは、ことごとく「はかなさ」に向いていたと言っても過言ではない。このような断定は、初手から我がポエジーの埒外にあった。不思議なもので、それがいまや、この種の断言に出会うとホッとする。「かがやくものは若さなり」。いいなア。老いてからわかることは、まだまだ他にもたくさんあるに違いない。「俳句」(2001年11月号)所載。(清水哲男)




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