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December 04122001

 狸罠仕掛けて忘れ逝きにけり

                           和湖長六

語は「狸罠(たぬきわな)」で冬。作物を荒らすので、農家にとっては天敵の狸ども。こいつをひっとらえるための道具が「狸罠」で、狸が通る道は決まっていることから、その習性を利用して仕掛けておく。仕掛けたからには見回って歩くわけだが、掲句の主人公は仕掛けたことすら忘れてしまい、そのうちにぽっくりと逝ってしまった。句が実話か想像の産物かは問題ではなく、人の死のあっけなさを詠んで秀逸だ。いつか私が死ぬときも、まさか実際に罠を仕掛けることはないけれど、一つくらいは何かを仕掛けておきながら、すっかり失念したままに逝ってしまうのだろうと思わせられた。このときに失念が、死にゆく者のせめてもの幸福となる。失念が無かったら、死んでも死に切れないだろう。一種滑稽な味わいのなかで、作者はちゃんと死者を救っている。私の田舎では、狸よりも猪による被害のほうが甚大だった。猪には罠では間に合わないので、この季節になると大人たちは犬を連れて山に入り、猟銃で射殺した。いまでは猿の跋扈に悩まされていると聞くが、どんな対策を講じているのか。しかし、いくら害をもたらすといっても、やはり生命あるものを手にかけるのは辛いものがある。鶴丸白路に「逃げてゐてくれし狸や狸罠」がある。本音である。『林棲記』(2001)所収。(清水哲男)




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