January 102002
冬青空いつせいに置く銀の匙
水野真由美
季語は「冬の空」。曇りや雪の日の空は暗鬱で寒々しいが、晴れた日には青く澄みきって美しい。その美しさを、どう表現するか。たとえば「冬青空鈴懸の実の鳴りさうな」(中村わさび)という具合に地上の自然と呼応させるのが、俳句的常道だろう。悪くはないが、あくまでも静観の美しさだ。が、作者の場合は静観では飽き足らぬ思いがあり、アクションで呼応している。あまりの美しさに、食事中の「匙」を思わずも置くほどだと言うのである。それも作者ひとりだけではなく、地上のあちこちでたくさんの人々が「いつせいに」置いたと瞬間的に想像を伸ばしている。このときに「銀の匙」の「銀」とは、本物の「銀製」である必要はない。見事な青空に対すれば、どんな匙でも少し鈍色がかった銀色に見えるはずだ。決してキラキラとは輝いていない匙が「いつせいに」、それも無数に食卓に置かれたことで、いっそう冬空の青さが鮮烈に目に沁みてくる。さらに私の独断的想像を書いておけば、句が終わった途端に、アクションを起こした人々の姿も食卓も住居までもが「いつせいに」掻き消されてしまい、青空の下に残ったのは数多の「銀の匙」だけのような気がしてくる。そんな絵のような光景が浮かんできた。『陸封譚』(2000)所収。(清水哲男)
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