庭の小さな梅の木に花がぽつりぽつり。例年実は数個しかならない。今年は梅干しにしてやろう。




2002ソスN1ソスソス29ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

January 2912002

 電話ボックス冬の大三角形の中

                           今井 聖

は大気が澄み、凍空の星の光は鋭く近くに見える。「冬の大三角形」は、3つの星座の明るい星を結ぶと、大きな三角形ができることから命名された。オリオン座α星ベテルギウス(0.4等)、おおいぬ座α星シリウス(−1.5等)、こいぬ座α星プロキオン(0.4等)の三つの星を結ぶ(位置を確かめたい方は、こちらで)。季語にはないので、当歳時記では「冬の星」に分類した。その「大三角形の中」に「電話ボックス」がぽつんと一つ灯っている。電話ボックス自体が、さながら宇宙空間に浮かんでいるようだ。幻想的なイメージの美しさ。宮沢賢治を思い出した。谷内六郎の絵のようでもある。ところで、この電話ボックスの中に、人はいるのだろうか。私の好みでは、無人が望ましい。誰かがいるとなると、地上的現実がいわば錘となって、宙には浮かないような気がするからだ。どうしても人を存在させたいのなら、架空の人物にしてほしい。松本零士描くところの透明感のある美女だったら、確実に宙に浮くだろう。余談だが、我が町三鷹市の国立天文台では、月に二度ほど天体観望会を催している。実施条件に「快晴の夜以外は中止」とある。掲句の空も、むろん快晴でなければならない。『谷間の家具』(2000)所収。(清水哲男)


January 2812002

 白鳥の首つかみ振り回はす夢

                           高山れおな

語は「白鳥」で冬。どうなることかと読み下していって、最後の「夢」でほっとさせられる。夢では何でもありだから、こんな夢もあるよね。と、気楽に読み捨てにできないところが、掲句の魅力だ。人間誰しも、ときに凶暴な衝動にかられるときがあるだろう。日常生活では厳しく自己抑制している感情だから、たまには夢のなかで爆発したりする。わけもなく、上品でしとやかなイメージの「白鳥」の首根っこを無理無体につかまえて、わめかばわめけと「振り回はす」ようなことが起きる。でも、人間とは哀しいもので、たとえ夢の中にせよ、そのうちに日常の倫理観がよみがえってくるのだ。白鳥を振り回したまではよかったが、次第に凶暴な感情が醒めてきて、「ああ、俺はとんでもないことをやっている。こんなこと、しなければよかった」と思いながらも、しかし、もう手遅れである。できれば、なかったことにしたい。が、現にこうやって振り回している事実は、消えてはくれない。どうにもならない。身の破滅か。……と、自責の念が最高度に高まったところで、はっと目が醒めた。夢だった。ああ、よかった。助かった。ここで読者もまた、同様な気持ちが理解できるので、安堵するという仕掛けの句だ。夢でよかったという思いは、夢の中での被害者としてか、あるいは句のように加害者としてなのか、自分の場合は、どちらが多いのだろう。そんなことを考えさせられる一句でもありますね。『ウルトラ』(1998)所収。(清水哲男)


January 2712002

 切干大根ちりちりちぢむ九十九里

                           大野林火

語は「切干(きりぼし)」で冬。一般的な切干は、大根を細かく刻んで乾燥させたものを言う。サツマイモのもある。寒風にさらして、天日で干す。「九十九里」浜は千葉県中東部に位置し、太平洋に面する長大な砂浜海岸。北は飯岡町の刑部岬から南は岬町の太東崎に至る長さ約60キロの弧状の砂浜だ。九十九里にはとうてい及ばない距離なのだけれど、実際に行ってみると、命名者の思い入れは納得できる。源頼朝が六町を一里として矢をさしていき、九十九里あったところから命名されたという説もあるそうだ。掲句の面白さの一つは、この見渡すかぎりの砂浜に、まことに小さく刻まれた大根が干されてあるという対比の妙である。それも、どんどん乾いて小さくなっていくのだから、なおさらに面白い。もう一つは「ちりちりちぢむ」の「ち」音の重ね具合だ。あくまでも伸びやかな雰囲気の砂浜に比して、身を縮めていく大根の様子を形容するのに、なるほど「ちりちり」とはよく言い当てている。このときに作者もまた、晴天ゆえの寒風に身を縮めていたに違いない。妙なことを言うようだが、多く「ち」音の言葉には、どこか小さいものを目指すようなニュアンスがある。私は別に、英語の「chilly」もふと思ったが、そこまではどうかしらん。切干大根は、油揚げと煮たのが美味い。おふくろの味ってヤツですね。『新歳時記・冬』(1989・河出文庫)などに所載。(清水哲男)




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