March 132002
斑雪照り山家一戸に来るはがき
鷲谷七菜子
季語は「斑雪(はだれ)」で春。北陸では春にほろほろと降る雪を指す地方もあるようだが、一般的には、点々と斑(まだら)に残っている春の雪を言う。よく晴れた日には、雪の部分が目にまぶしい。そのまぶしさに、本格的な春の訪れが間近いという喜びがある。句は、そんな日の山腹に家が点在する集落の一情景を詠んでいる。赤い自転車を引っ張って山道を登ってきた郵便配達夫が、とある山家(やまが)に一枚の「はがき」をもたらした。私の田舎でもそうだったけれど、戸数わずかに十数戸くらいの集落では、毎日郵便配達があるわけではない。年賀状の季節を除けば、めったに郵便物など来ないからである。したがつて、集落には郵便受けを備えている家もなかったし、投函する赤い郵便ポストもなかった。配達は手渡しか、留守のときには勝手に戸を開けて放り込んでいく。句では、手渡しだろう。作者のところへ来たのではなくて、その情景を目にとめたのだと思う。もとより文面などはわからないが、受け取った人が発信人を確かめて、すぐにその場で立ったまま読みはじめている情景が目に浮かぶようだ。作者は、この情景全体を「春のたより」としたのである。たった一枚のはがきに、よく物を言わせている。『花寂び』所収。(清水哲男)
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