二夜連続パーティ。さすがに疲れた。本日は一日引きこもって仕事。これも疲れる。




2002ソスN3ソスソス17ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

March 1732002

 みちのくの淋代の浜若布寄す

                           山口青邨

語は「若布(わかめ)」で春。日本独特の海草で、北海道東海岸を除き全国的に分布している。「淋代(さびしろ)」は青森県三沢市に属するが、命名の由来は知らねども、なんという淋しげな地名なのだろう。地名だけで、北国の荒涼とした寒村を彷彿させる。その淋代のひっそりとした浜辺には、浅瀬に若布が揺らいでいるばかり。北国に遅い春がやっと到来したのだけれど、光りの明るさゆえになおさら寂寥感が募るという趣だ。ところで、戦前の淋代の浜は、イワシの地引網で大いににぎわったという。それに、飛行機ファンならご存知のように、ここは航空機史上では名高い土地なのである。1931年(昭和六年)アメリカのハーンドン、パングボーン両飛行士による最初の太平洋無着陸横断飛行の出発点となったところだからだ。二人の飛行機野郎は、単葉機「ミス・ヴィードル号」の荷重を軽くするために、飛び立つとすぐに海に車輪を投げ捨てた。胴体着陸覚悟の決死行だ。そして41時間13分後に、シアトル東方のワシントン州ウェナッチ飛行場に無事着陸。冒険は成功した。作者は、こうした史実を承知して詠んでいるはずだ。すなわち「つわものどもが夢の跡」と。しかし、こうしたことを知らなくても、掲句は十分に観賞に耐え得る。多くの歳時記が、若布の例句として掲げている所以だろう。(清水哲男)


March 1632002

 子らの皆東京へ出し種おろし

                           太田土男

を読んで、一瞬むねの内に苦い思いの走る世代は、確実に存在するだろう。1980年(昭和55年)の作。季語は「種おろし」で春。「出し」は「でし」と読ませている。種おろしは苗代に種を蒔くことであり、「種蒔(たねまき)」と同義だ。野菜や花の種を蒔くことは「物種(ものだね)蒔く」と言って、古くから季語的には区別されてきた。それだけ、米作りは大切だったのだ。解釈の必要はあるまい。働き手の「子ら」はみな東京へ出ていってしまい、この春は残った家族だけの寂しい種蒔となった。蒔きながら、東京で「皆」元気にしているかなと気づかう親ならではの思いが滲み出ている。他方、東京へ出た子らも、いまごろは種蒔で大変だなと親の苦労を思いやっている。どこにもそんなことは書いてないけれど、そういう句だ。東京や大阪などの大都会に若者が流出し、父親もまた出稼ぎに行った時代。田舎を出る人のおおかたは、戦前のような立身出世を夢見てではなかった。農業ではお先真っ暗と察知しての若者たちの決意からであり、現金収入を得たいがための父親たちの里離れだった。「三ちゃん農業」と言われ、農作業は「かあちゃん、じいちゃん、ばあちゃん」の手にゆだねられ……。そもそもの発端は、1961年の「農業基本法」公布にある。端的に言えば、法の真意は小農の切り捨てだった。いまでは育苗箱への種蒔がほとんどだから、まず句のような情景は見られない。しかし、掲句にずきんと反応する人は、依然として多く都会で暮らしている。もとより、そのなかには政治家もいる。『太田土男集』(2001)所収。(清水哲男)


March 1532002

 雲呑は桜の空から来るのであらう

                           摂津幸彦

国では、正月(むろん旧暦の)に「雲呑(わんたん)」を食べる風習があるというが、その形といい味といい、どことなく春を思わせる食べ物だ。点心(てんしん)の一つ。食べながら作者は、ふっとこう思った。この想像が、我ながら気に入って、句にしてしまった。句にしてからもう一度読み下してみて、ますます「あらう」の確信度が強まってきた。そんな得意顔の作者の表情には稚気が溢れていて、微笑を誘われる。地上の艶なる桜のあかるみを、空に浮かぶ雲が写している。あの雲が、この雲呑ではないのか。この想像は、悪くない。楽しくなる。何も連想しないで何かを食べるよりも、このようにいろいろと自然に想像力が働いたら、どんなにか楽しいだろうな。そういうところにまで、読者を連れていく……。なんだか無性に雲呑を食べたくなってきたが、あれは単体でさらりと食べるほうが美味い。世に「雲呑麺」なるメニューがある。けれども、ラーメンライスと同じように、ただ腹を満たすためにはよいとしても、どうしてもがっついた感じが先行する。それに私だけの味覚かもしれないが、雲呑と麺とは基本的に相性がよろしくない。食感が、こんがらがってしまうのだ。さて、間もなく桜の季節がやってくる。花見の後には、雲呑をどうぞ。『鸚母集』(1986)所収。(清水哲男)




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